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劣等人間のようです

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( ・∀・)は好奇心に勝てないようです

162 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:24:08 ID:bcyv6qe.0 [2/27]
  
( ・∀・)「いただきます」

一人きり、部屋の中でモララーは手を合わせる。
誰もいないからといってマナーをおろそかにするような教育を受けていない彼の所作は美しく、
お手本のような箸使いであった。

彼自身がこしらえた夕飯はわかめの味噌汁と魚の煮付け、
出汁巻き卵とほうれん草のおひたし。
そして白米。

絵に描いたような日本の朝食であり、
夕飯として出されると少々物足りなさを感じる者も多いかもしれない。

しかし、後は眠るだけのこの時間。
腹を満たす必要性は薄く、
健康面を考えるのであれば質素に見える程度が丁度良いのだ。

箸で卵焼きを割れば出汁が溢れ、
ほうれん草を噛めばしゃきしゃきとした音が鳴る。

テレビの一つ、ラジオの一つもついていない部屋は静かで、
モララーの食事の音だけが静かに響いていた。

( ・∀・)「ごちそうさまでした」

ゆっくりと時間をかけて彼は皿を空にする。

163 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:24:37 ID:bcyv6qe.0 [3/27]
  
( ・∀・)「今日も美味しいご飯だった」

風呂に歯磨き、明日の準備。
寝るための準備を整えつつ、モララーは呟く。

気に入りの品種を大きめの炊飯器でふっくら炊いた白米には甘みがあり、
丁度いい火加減の出し巻き卵は硬すぎず柔らかすぎずの加減を守っていた。
他の料理に関しても同様で、
どれも満足のいくものを作れたと自負している。

だが、世間はいつも彼に言うのだ。

( ・∀・)「一人でも味気なくないのになぁ」

親元を離れて早数年。
一人暮らしにはすっかり慣れた。

平日にする料理も、
休みの日にまとめて行う家事も、
始めこそ戸惑いや失敗もあったけれど、
今では問題なくスムーズに行うことができている。

不便など一切ない、と言えば嘘になるが、
現状にモララーは充分満足していた。

けれど、周囲は彼をそう見ない。

164 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:25:37 ID:bcyv6qe.0 [4/27]
  
会社の上司や同僚、パート達は休憩時間や始業前、
飲み会の席にたまたま出くわした電車の中で口を揃えて言うのだ。

「独り者は寂しい」
「食事が味気ないだろう」

何がだ。
モララーはいつも思っている。

しかし、できた男である彼は、
己の考えが少数派であることを理解しており、
人間関係において同調は非常に有効であることも知っていた。

( ・∀・)「そうですね。ボクにも良い人が見つかるといいのですが」

人好きのする良い笑顔を顔に貼り付け、
同じ言葉を繰り返す。

中身の伴わぬ薄っぺらなそれは、
今のところ誰かに見抜かれることなく過ごせている。

( ・∀・)「わっかんないなぁ」

寂しい、という感情は、
比較的理解の及ぶ範囲であった。
家族と暮らしてきた十数、あるいは二十数年。

周囲にあった自分以外の気配や物音が消えるというのは、
確かに違和感を覚えるものである。

165 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:26:24 ID:bcyv6qe.0 [5/27]
  
その違和感を「寂しい」と形容することに疑問はあるが、
漠然とした理屈が見出せるのならば受け入れることもできた。

ならば味気なさはどうだろうか。

( ・∀・)「誰かがここにいたって、ボクの料理の腕前は変わらないし、
      使う材料も変わらない。
      だったら誰と食べたって一緒だろうに」

学生時代にいた恋人という存在も、
職場の同僚も上司も、
彼の味覚に何らかの変化をもたらしはしない。

両親に関しては検証を行ったことがないので憶測になってしまうが、
おそらくは彼らと共にレストランに行ったところで、
一人で同じ場所、同じ料理を食べた時と同じ感想しか抱けないだろう。

( ・∀・)「小学校の時なんて大変だったもんな」

洗い物を終えたモララーはしみじみと呟く。
いつ思い返してもやらかした、としか思えない時代が彼にもあった。

( ・∀・)「家庭環境の違いであそこまで浮くかね」

塗れた手を拭き、肩を回す。
これで今日の仕事は終わりだ。
残すところは眠るのみ。

166 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:26:53 ID:bcyv6qe.0 [6/27]
  
目覚まし時計をいつもの時間にセットし、
モララーは布団の中へ入り込む。
閉じられた瞼に浮かぶのは、
遠巻きに見られている幼い己の姿だった。

( ・v・)「どーしてみんなといっしょに
     ごはんをたべないといけないの?」

「せんせー、もららーくんへんだよ」
「いっしょにたべなくないなら、
 お前どっかいけよ」

( ・v・)「……だって」

彼が大勢との食事に楽しみを見出すことができず、
舌の上に乗る料理へ振りかけられた目に見えぬスパイスを感知できぬ理由の一つに、
生まれ育った家庭環境というものがある。

モララーの両親は善良であったし、
夫婦仲が冷え切っていたわけでも、
地の底を這うような家計でもない。

共働きではあったが母親はいつもモララーのために暖かい食事を用意してくれ、
仕事に忙しくしつつもたまの休みになれば父親は子供と共に出かけ、
習い事がしたいと言えば教室に通わせてくれる、
誰から見てもわかりやすく幸せな家庭であった。

ただ一つ。
食事と共にする習慣がないことだけが、
世間から外れていただけ。

167 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:27:22 ID:bcyv6qe.0 [7/27]
  
鍋やテーブルに用意された食事を温めるのはいつものこと。
出来立てを食べるときは母がずれた時間にとるのがモララーにとっての日常であった。

( ・v・)「うるさいなぁ……。
     ボクはひとりでごはんをたべたいのに」

何が好きか、一口欲しい、
他愛もない雑談、騒がしい周囲というのは、
彼にとって非日常でしかなかった。

周囲から浮いた状態は中学を卒業するまで続き、
その間に人との関わり方をよくよく学んだモララーは、
遠くの高校へ入学することで新たな人生をスタートさせた。

大勢で囲む食事の美味さを理解できぬことで支障を感じたことはない。
一生をかけて望まねばならぬ疑問点ではあるが、
思考をめぐらせることを苦に思わぬモララーにとって、
些細かつ難解な疑問というものは人生の友も同然。

世間体のために隠さねばならぬ事項ではあれど、
唾棄し、絶望するようなモノには成り得ない。

成人して数年んが経つ今も過去の実験、検証の結果を元に思考を働かせている。
機会があれば両親や、全くの他人との食事というものも試してみるべきだろう。

好奇心の尽きぬ人生は素晴らしい。
モララーは己の奇異性に感謝すらしていた。

168 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:27:58 ID:bcyv6qe.0 [8/27]
  
彼に転機が訪れたのは、上司に勧められた見合いの席についたときだった。

川 ゚ -゚)「初めまして。素直クールと申します。
     友人にはクーと呼ばれています」

( ・∀・)「……」

お辞儀と同時に艶やかな髪が肩へ流れてゆくのを目にし、
思考は瞬きほども時間をかけずして消え去った。

髪だけではない。
落ち着いた声も、ちらりと見えた青をわずかに垂らした黒の瞳も、
細身の体によく似合う服装も、頭を下げるその所作さえ、
モララーの思考を押しのけ、心や脳の全体を占領してしまう。

川 ゚ -゚)「あの……?」

(;・∀・)そ「あ、はい!
       すみません。少し、ぼーっとしてしまいまして」

相手からの無言に、クールと名乗った女性は戸惑いの表情を浮かべる。
窺うような声に正気を取り戻したモララーは、
一言謝罪を入れ、自身の紹介へと移っていく。

( ・∀・)「私は良野モララーと申します。
      本日はこのような場を用意していただき、光栄です」

川 ゚ -゚)「こちらこそ。いつまでも独り身の私を心配し、
     母が都合してくれたのですが、あなたのような人と会えるのであれば、
     もっと早くに見合いというものを受け入れても良かったかもしれません」

169 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:28:34 ID:bcyv6qe.0 [9/27]
  
片手では数え切れぬほどの女性と付き合ったことのあるモララーであるが、
今ほど感情が揺れ動いたのは生まれて初めてのことであった。

( ・∀・)「それで――」

川*゚ -゚)「ふふ、それ、本当に?」

いつになく会話は弾み、
出される食事も質の高さが窺えるもので、
実に良い時間を過ごすことができた。

( ・∀・)「よければ、また今度、
      食事でもご一緒できればと思うのですが」

川 ゚ -゚)「奇遇ですね。私もいつ言い出そうかと考えていたところです」

過去の女性達と遊びで付き合っていたつもりなどないが、
クールと出会い、脈打つ心臓を鑑みるに、
あれらは全て本気の恋ではなかったのだろう。

恋や性交渉というものへの好奇心からあの関係はきていたに違いない。
この歳で初恋か、と思わないわけではなかったが、
それ以上にモララーは浮かれていた。

交換した電話番号とメールアドレスと携帯電話に打ち込むわずかな時間に幸福感を覚えるなど、
昨日までの自分に告げたところで信じないに決まっている。

170 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:29:25 ID:bcyv6qe.0 [10/27]
  
川;゚ -゚)「遅れてしまってすみません」

( ・∀・)「いいえ。私も今きたところです。
      それに、予定の時間から十分も過ぎてませんよ」

川 ゚ -゚)「たとえ一分であろうと遅刻は遅刻です」

眉を下げるクールに優しい言葉をかけ、
モララーは雰囲気が良いことで有名な店へ彼女を案内する。

既婚者の同僚もこの店を現在の奥さんとのデートに利用しており、
店員、料理、雰囲気、共に非常に良い、という評価をしていた。
顔も知らぬ不特定多数の意見とよく知る人物からの太鼓判があるのだ。
初デートの場所としては申し分ない。

( ・∀・)「二名で予約していた良野ですけれど」

木目調の扉を開ければ、
なるほど、ほの暗い店内にある光は炎を連想させる淡さと落ち着いた色味をしており、
店内にいる者の顔を優しく照らしている。

粗をぼかすと同時に、血色を良く見せる効果は、
恋人、もしくはその候補を連れてくるには最適なものであった。

流れるクラシック、店内に作られた細い水路を行く水の音。
瑞々しい観葉植物と半分個室のように区切られた席は、
同僚やネット上で絶賛されるに相応しいものである。

171 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:30:03 ID:bcyv6qe.0 [11/27]
  
川 ゚ -゚)「モララーさんからのメール、
     いつも楽しみにしてるんです」

( ・∀・)「それは嬉しいですね」

川 ゚ -゚)「つい話が弾んでしまって、
     長話になってしまうのが申し訳ないな、と」

( ・∀・)「私は構いませんよ。
      でも、そうですね。
      もしも良かったら、次からは電話をしても良いですか?」

川*゚ -゚)「……もちろん」

クールの頬がわずかに赤く染まる。
照明による錯覚かもしれないが、
弾む調子を押さえ込んだような声を聞けば、
モララーの目が場の雰囲気に騙されているわけではないことは明白。

メールのやりとりは続けていたけれど、
直接顔を合わせたのは二回目だ。

展開が速すぎるだろうか。
否、モララーはひと目見たときから彼女に恋をした。
始まりが早かったのであれば、
続きが同様であるのは必然のはず。

勝機がないわけでもない。

( ・∀・)「……そしてできれば、
      敬語もやめていただきたい」

172 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:30:35 ID:bcyv6qe.0 [12/27]
  
他人としてではなく、恋人として。
それがまだ早いのであれば、
心が揺れ動く友人として。

モララーはクールの心に居座りたかった。

川*゚ -゚)「わかった」

小さく頷いた彼女に、モララーは安堵の笑みを返す。

( ・∀・)「良かった。
      断られたらどうしようかと」

川 ゚ -゚)「そんなはずがないだろ?
     もし断るなら、そもそもここにだって来ていない」

人によっては冷たく感じるかもしれないクールの言葉選びも、
モララーからしてみれば自分に素直かつ落ち着いた好印象にしかならない。

川 ゚ -゚)「電話やメールだけと言わず、
     また美味しい料理も食べたいしな」

テーブルに置かれているのは、
トマトとキノコをふんだんに使ったパスタだ。

フォークを用いて口元に近づければ、
ハーブとトマトの芳醇なさわやかさが鼻腔をくすぐる。

173 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:31:14 ID:bcyv6qe.0 [13/27]
  
口に含めば優しい酸味と共に、
キノコの味わい深さが広がり、舌先を楽しませてくれる。

前菜として出されたズッキーニーのオイル漬けも中々のものであったが、
パスタも予想を外さぬ美味さである。
次に出てくる肉料理への期待も高まるというもの。

( ・∀・)「これは次も良い店をリサーチする必要がありそうだ」

川 ゚ -゚)「次はキミの馴染みを知りたいものだが」

( ・∀・)「ここほどの料理は出てこないよ」

川 ゚ -゚)「普段の食事が知りたいんだ」

( ・∀・)「だったらいずれはボクの手料理も振るわないとだね」

川 ゚ー゚)「楽しみにしているよ。
     勿論、私の手料理も食べてもらうことになるけど」

( ・∀・)「わお。最高だね。
     その日が今から待ち遠しいや」

会話が弾む。
食が進み、アルコールが喉と胃を心地良く焼いていく。

見合いの席での料理も大そう美味しいものだったが、
この店も相当に質が高い。
二人で二万程度で良いのか、と本気で悩んでしまう。

174 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:31:37 ID:bcyv6qe.0 [14/27]
  
初デートでこれほどの料理を出されてしまっては、
次回からの店選びはどれほど大変だろうか。

わずかな不安がモララーの脳裏をよぎるが、
きっとクールは見知った居酒屋の料理でも笑んでくれることだろう。

彼女を美化しているわけではなく、
極普通に生きている中で、これだけの料理をこの価格で見つけることは難しい。
そのことを理解し、高すぎるモノを望まぬだけの賢明さをクールは有している。

ブランド品を買い与えなければ満足せぬ豚のような女ではないのだ。

川 ゚ -゚)「今日も楽しかった」

( ・∀・)「ボクもだよ」

川 ゚ -゚)「……帰ったらメールをしても?」

( ・∀・)「ボクから送るかもしれない」

川*゚ー゚)「待ってる」

( ・∀・)「走って帰らないと」

川*゚ー゚)「競争でもしようか?」

( ・∀・)「怪我をしたら大変だ。
      ゆっくり帰ってくれ」

175 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:32:32 ID:bcyv6qe.0 [15/27]

二人は頻繁に連絡をし合い、
日常の中に週末のデートが組み込まれるようになった。

ショッピングでは互いの服や持ち物を選びあい、
気になっていた映画を鑑賞し、
コンサートや展覧会にも赴いた。

最後に行く食事の場所は交互に選び、
新しい店の発掘やオススメを紹介しあった。

( ・∀・)「……おかしい」

周囲から揶揄される程度には楽しく、充実した日々だ。
金曜になれば目に見えて浮かれ、
デートの日は一日を通して幸福感に満たされる。

別れた次の日には恋しさを覚え、
メールに電話にとクールの存在を確かなものにしようとした。

だが、満たされた生活の中、
モララーに一つの疑問が生まれる。

( ・∀・)「あの店はボクがよく利用してた店だ。
      味は悪くないが、あそこまでではなかったはず」

週明けの月曜日。
自分で作った夕飯を口に入れつつモララーは思い悩む。

176 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:33:21 ID:bcyv6qe.0 [16/27]
  
昨日、クールと食事をした店は、
馴染みとまでは言わずとも、
それなりの頻度で利用していた居酒屋だ。

悪い味ではないが特別美味いわけでもない。
変わったメニューがあることが気に入っていただけで、
その他に特筆するべきところはないような店だったはず。

( ・∀・)「……どうしてあんなに美味しかったんだ」

舌の上で広がった旨み、
歯ごたえから脳髄に伝わってくる味、
鼻から胃へ落ちてくる香り。

どれをとってもモララーの知るものとは違っていた。
料理人が変わったのか、と思い、
さりげなく厨房へ目をやりもしたが、
そこにいる禿げ頭は数年前からちっとも変わっていない。

使う食材が変わったのであれば大々的に宣伝を打つだろうし、
調理方法がここ最近で変わったにしても味の違いが劇的だ。

( ・∀・)「一体全体、どういうことだ」

自分の周りで、自分の理解が及ばぬことが起きている。
良い方向への変化であるため、不気味とまでは思わないけれど、
モララーの好奇心を刺激して有り余るほどの事態ではあった。

177 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:33:53 ID:bcyv6qe.0 [17/27]
  
( ・∀・)「まずは落ち着いて前提を考えよう」

食事を終え、風呂に湯を溜めながら考える。

( ・∀・)「いつからこの異常は起きているのか」

頭の中だけで思考を完結させるのは賢いやりかたではない。
周囲に人がいない状態であるのならば、
思考を整理し、状況を再認識させる効果を期待し、考えを声に出していくべきだろう。

( ・∀・)「不明。ボクが認識しだしたのはここ数週間。
      仮に数週間前からの異常であるとするならば、
      その期間に何があったか」

記憶を掘り起こし、過去へと飛ぶ。

( ・∀・)「仕事の成績が上がった。
      外食の回数が増えた。
      クールと出会った」

明日の準備に手を動かし、
一つ一つ心当たりをあげていく。

( ・∀・)「ふむ。外食回数が増えたことで、
     ボクの舌の好みが変わった……?
     いいや、そうだとすれば年単位の変化になるはずだ」

178 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:34:36 ID:bcyv6qe.0 [18/27]
  
ならば、とモララーは言う。

( ・∀・)「クールさんと出会ったことが原因だと仮定すると」

テーブルに置いていた携帯電話が震えた。
数回のバイブレーション。
メールを受信したのだろう。

( ・∀・)「彼女と話すことに集中するあまり、
      味へ意識が向いていない……?」

散々に言われてきた、
誰かと共に食べる食事は美味しい、などという選択肢は最初から除外されている。

積み重ねてきた検証の結果が、
他者と食べる食事に変化はない、と結論付けていた。
クールは素晴らしい女性だ。
愛おしい存在でもある。

しかし、共に食事をする人間は味に変化をもたらさない。
決定的な要因を見つけぬ限り、
モララーは己の出した結論を覆すつもりはなかった。

( ・∀・)「あるいは」

携帯電話を手に取る。
クールの名前が画面にポップアップされていた。

179 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:35:06 ID:bcyv6qe.0 [19/27]
  
ネットで見つけた可愛い動画の話に並び、
次に行く予定の店を見つけたこと、
残業で疲れたことが書かれており、
文末はおやすみなさい、という言葉で締めくくられている。

( ・∀・)「……彼女がいることで生まれるポイント」

返信を打ちながらも思考の半分が帰ってこない。

店に人間にも変化がなく、
他人が味に変化を及ぼさないのであれば、
要因はクールという人間にあるのではないか。

思い出されるのは、クールの艶やかな黒髪。
風に揺られたそれは、隣にいるモララーへ甘く優しい匂いを運ぶ。
笑顔は柔らかで愛らしく、普段は大きく、笑うときは細められる目は水分をたっぷり含んでいて美しい。
言葉を紡ぐ唇は弾力があり、初めてのキスをした際は夢中になってしまった。

( ・∀・)「そうか」

また明日、と付け加えたメールを送信し、
モララーは天啓を得る。

( ・∀・)「彼女は特別なんだ」

気づいてしまった。
好奇心が背を蹴りつける。

180 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:35:32 ID:bcyv6qe.0 [20/27]
  
川 ゚ -゚)「お邪魔します」

( ・∀・)「何もない家だけでくつろいでてよ」

悩みに結論を打ち出して数週間。
モララーは初めてクールを自宅に招待した。
二人の関係は既に恋人未満を脱しているが、
時間の都合や互いの興味関心の都合で自宅訪問は後回しにされていたのだ。

川 ゚ -゚)「キレイな部屋だ」

( ・∀・)「物がないだけだよ」

川 ゚ -゚)「いいや、埃もないし、細かなものもきちんと整理されている。
     日頃からちゃんと家事をしている人間の部屋だ」

( ・∀・)「そう褒められると恥ずかしいなぁ……」

本棚にしまわれている本の話や、仕事の話。
テレビをつけて番組に対する感想などを言い合っていれば、
時間はあっという間に過ぎていく。

( ・∀・)「もうこんな時間か」

外を見れば夕日が半分以上地の底へと沈みこんでいた。
もう間もなく世界は夜になる。

川*゚ -゚)「……今日は、泊まっても?」

181 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:36:05 ID:bcyv6qe.0 [21/27]
   
クールの荷物はいつものポーチではなく、
大き目の旅行鞄だった。
恋人が自宅へ招待してきたのだ。
泊まりを想定するのは当然だろう。

( ・∀・)「一つ、話をしても?」

川 ゚ -゚)「ん? あ、あぁ、勿論だとも」

予想外の返しに言葉を詰まらせながらも、
彼女は是と応える。

( ・∀・)「ボク、人と食べるご飯に特別な美味しさとか感じたことがなかったんだ」

川 ゚ -゚)「そうなの、か?」

( ・∀・)「うちの家はみんなでご飯を食べる習慣がなかったからかな。
      成長した今でも誰かの存在が食事をより良いものにしてくれるって感覚がなかった」

それがキミと出会って変わった。
モララーは優しい声色で言う。

( ・∀・)「よく行く店の料理があんなに美味しく思えたのは初めてだった」

川*゚ -゚)「ふふ、それは良かった」

クールは笑む。
当然だ。
恋人からキミは特別な存在だ、と言われて嬉しくならない女はいない。

182 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:36:55 ID:bcyv6qe.0 [22/27]
  
( ・∀・)「たくさん考えた。
      どうしてキミとならあの料理も、あの料理もどれもこれも美味しくなるんだろうって」

川*゚ -゚)「それは私だからこそ、か?」

( ・∀・)「その通り!」

モララーは両手を大きく広げ、
ソファに座っていたクールを抱きしめる。

( ・∀・)「キミが傍にいるだけで、
      ボクの脳も舌もすっかり変わってしまう」

川*゚ -゚)「おいおい、どうしたんだ急に」

( ・∀・)「嬉しいんだ!
      キミと出会えて。
      新たな可能性に出会えて!」

川*゚ -゚)「……私も、嬉しいよ。
     モララーと出会ってから、楽しいことだらけだ」

( ・∀・)「ありがとう。
      キミという存在をボクは無駄にしない」

川 ゚ -゚)「それってどういう――」

クールの言葉が止まる。
背後から、鋭い冷たさが体内に入り込んだ。

183 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:37:23 ID:bcyv6qe.0 [23/27]
  
川 ゚ -゚)「モ、ラ……?」

( ・∀・)「近くにいることで感じられる香りがボクの嗅覚を刺激した。
      柔らかな肉体がボクの想像力をかきたてた。
      世界で一番美味しいものがそこにあったから、
      前菜まで美味しく感じられたに違いない!」

クールを抱きしめた右手には大振りのナイフが握られており、
彼女の背に突き立てられている。
モララーは一言を発するごとに刀身をより深く埋めていく。

川 ゚ - )「モッ……!」

( ・∀・)「わかるよ。キミの言いたいことは。
      ずっとキミといれば、ボクは以前よりずっと美味しいものを食べ続けられる。
      殺してしまうなんてもったいないよね」

でも、我慢できない。
常と変わらぬ表情と声で彼は言う。

( ・∀・)「好奇心が止められないんだ。
      前菜まで美味しくしてしまうようなキミの体は、
      一体どれほど至高なんだい?
      味わいたい。世界最高を」

暖かい血がクールの服を、モララーの手を汚し、
黒のソファを伝って床まで侵食していく。

184 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:40:08 ID:bcyv6qe.0 [24/27]
   
( ・∀・)「髪までちゃんと食べるからね」

川  - )「――ぁ」

柄まで埋まり、クールはか細く空気を吐いて力を失う。
鼓動の音が止まった。

( ・∀・)「よい、しょっと」

血抜きもしなければならないが、まずは死体を冷やさなければならない。
傷口から入り込んだ最近により、血液が腐ってしまう前に。
モララーはクールの体を抱き起こし、
先んじて溜めていた浴槽の氷水へと彼女の体を放り込む。

透明な水が赤く染まり行くのを確認しながら、
彼は次の作業の準備をしていく。

( ・∀・)「数日にわけて食べよう。
      冷凍する分と、燻製にする分と、たたきと、煮込みと焼きと」

鼻歌混じりに道具を揃え、
とうとうクールの解体が始まった。

血を抜き、皮を剥いで部位を分け、肉を削ぐ。
何分、初めてのことであるため、全てを完璧にこなすことなどできるわけもなく、
赤が浴室に撒き散らされるが、モララーは気にも留めない。
充満していく鉄錆びにも似た匂いが彼の腹をくすぐって仕方がないのだ。

今の彼にあるのは食への探究心のみ。

185 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:40:49 ID:bcyv6qe.0 [25/27]
  
( ・∀・)「いただきます」

解体という重労働を終えたモララーは、本日の夕飯に肉を並べた。
新鮮な肉を軽くあぶり、たたきにしたものと白米を前に、手を合わせる。

キレイな箸が一口サイズの肉をつまみ、
タレも何もつけぬままモララーの口へと運ばれた。
まずは食材そのものの味を確かめねばなるまい。

(*・∀・)「あぁ……。
      これは、素晴らしい」

深い味わい。
舌の上でとろける感覚。
鼻にまで昇ってくる香り。

どれをとっても至上であった。

(*・∀・)「いかんな。箸が止まらない」

肉は有限だ。
クールは細身の女性であったため、
得ることができた量もそう多くはない。

欲望のままに箸を進め続け、
調理をしてゆけば、瞬きの間に至高の肉は消えてしまうだろう。
自制心を取り戻すためにその時を想像してみるが、
何とも耐え難い飢餓感に襲われてしまった。

186 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/14(金) 18:41:25 ID:bcyv6qe.0 [26/27]
  
( ・∀・)「キミほどの女性にはもう二度と会えないんだろうなぁ」

暗い外の世界へ目をやり、モララーは心底残念である、と言葉を零す。

一時の幸福が終わってしまえば、
残されるのはあの味気ない料理達だけ。
また共に食事を楽しめるような人間に出会えるとも思えない。

( ・∀・)「……やっぱり、ちょっともったいなかったかな」

皿の上に残された最後の一切れを突き、
ひと匙の後悔にふける。

( -∀-)「だけど、仕方ないよね」

だって。






( ・∀・)は好奇心に勝てないようです






( ^ω^)文戟のブーンのようです[3ページ目]
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