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劣等人間のようです

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( ゚∀゚)ドラゴンと紡ぐ前日譚のようです 前編

363 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:20:55 ID:oNhpAIMg0 [2/49]
  
幼い頃、大抵の男の子と一部の女の子が憧れる職業。
自由を愛し、自然を愛し、困難を乗り越えて日々を生きる。
それが冒険者だ。

危険な魔物や動植物が溢れる町の外へ行き、
まだ見ぬ土地や洞窟を探検する。
そうして見つけた宝は、時として人知を超越した力を有するのだ。

生きて情報と宝を持ち帰った者を人々は賞賛し、
名誉を受けて冒険者は新たな場所へと足を進めていく。

何とも素晴らしく栄光に満ちた職業だろう。
  _
( ゚∀゚)「――って思ってた日がオレにもあったな」

ジョルジュは身の丈程もある大剣を肩に乗せ、ため息をついた。
目の前に広がるのは昆虫型の魔物達。
成人男性と同等の大きさをしたそいつ達は耳障りな羽音を立てながら彼を見ている。

一体一体の力は弱く、群れで統率をとっているわけでも、特殊能力も有しているわけでもない種だ。
歴戦の冒険者として十数年を生きている彼ならば十を超えて対峙したとしても傷一つ負うことなく完勝できるだろう。

だが、視界を多いつくさんばかりの数ともなれば話も変わってくる。
 _
(#゚∀゚)「こいやぁ!」

雄叫びと共に剣を振り上げ一匹を真っ二つに。
なぎ払い数匹の体と羽を切り落とし、振り下ろしてはまた一匹を殺す。

364 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:21:29 ID:oNhpAIMg0 [3/49]
  
食物連鎖の下層に位置する種というのは、
個を増やすことで種としての存続を計る。

ジョルジュが相手取っている昆虫型の魔物もまた然り。
自然界の理に則り、子を産み、その多くを成長途中で失う。

しかし、気候や他生物の出産状況等によって成虫が大量発生することが稀にあった。
_
(#゚∀゚)「面倒くせぇな! おい!」

弱い、というのは他の魔物と比較した際の話。
平和な街で生まれ、暮らす人々にとっては充分脅威となりえる存在だ。
一匹や二匹であれば数で対抗することもできるだろうけれど、
相手の方が多いとなれば敗北を喫するより他に道はない。

畑や家畜への被害だけで済むならばまだマシだ。
問題は魔物の殆どが雑食であり、人間を食らうこともままあるということ。

国を挙げて討伐にかかれば軍の人員が割かれ、他国への隙となる。
一般人では対処しきることができない。
街にいる警備兵達は防御に特化しており、殲滅には向かない。

ならば、誰が人々のため、戦いに赴くのか。
  _
( ゚∀゚)「あと何体だ?」

見通しのよくなった周囲を見渡す。

緑色の液体が撒き散らされた地面は汚らしく、
少量であれば気にもとめなかったであろう異臭がジョルジュの鼻をつく。

365 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:22:09 ID:oNhpAIMg0 [4/49]
  
冒険者。
かつて憧れた職業の実態とは、かくも世知辛い。

夢のような冒険も、地位と名誉も、金銀財宝もない。
あるのは命を賭しての雑用ばかり。

大量発生した昆虫型魔物の駆逐など典型的なものだ。
下を見れば町の外での薬草、素材収集。
上を見れば大型魔物の討伐、要注意特殊取り扱い素材の確保まで。

安全という言葉から程遠い場所で、街に生きる人々の生活を支える。
それが冒険者という存在に与えられた責務だ。
 _
(;゚∀゚)「あーあ、こりゃ服は買い替えだな」

羽音が止んだ世界でジョルジュはぼやく。
極力、返り血ならぬ返り体液を浴びぬようにしていたのだが、
袖や裾といった端々まで避けきることはできず、粘度の高い緑色がまとわりついていた。

簡単な水洗いなどでは落ちない汚れを苦労して落とすくらいならば、
新しい物を買ったほうが時間の短縮になり、気分も上がる。
  _
( ゚∀゚)「服はヴィップの方が質がいいんだが……。
     ま、背に腹は何とやらってやつだな」

ジョルジュが依頼を受けたファイナの町は酪農や農作物を特産としていた。
服を作る素材ならば良いものが手に入るが、それを服に加工する技術はお世辞にも高いとは言えない。

366 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:23:01 ID:oNhpAIMg0 [5/49]
  
ファイナで素材を購入し、ヴィップで加工してもらう、というのは旅の冒険者がよく使う手であるが、
今すぐに代えの服が欲しいジョルジュにそのような暇はなかった。
ダメになってしまった服も特別な効果が付与されているわけではなく、質に拘ったものでもない。
どこの町で購入しても、大きな差異は見受けられないだろう。

軽く袖を振り、体液を落としたところでジョルジュは帰路へつく。
と、数歩進んだところで足を止めて振り返る。
  _
( ゚∀゚)「っと、危ねぇ危ねぇ。
     ちゃーんと証拠持って帰らねぇとな」

ぐちゃり、と足音を立てながら彼は近場の魔物へ小型ナイフを差し込む。
討伐系の依頼は、対象となる魔物に一つしか存在していない部位を証拠としてを持ち帰るところまでが仕事となる。
今回の場合ならば証拠は尾についた鋭い針だ。

大量の魔物から素材を採取するのは一苦労だが、
これがなければ依頼達成とは認められない。

獲得した素材はそのまま冒険者のものとなるため、
売り払えば依頼料とは別枠の収入となる。
また、ものによっては武器防具の加工、生成に用いることもできることから、
討伐依頼は冒険者達の中でも人気が高い仕事だ。
  _
( ゚∀゚)「よし。今度こそ仕事終わり」

太い針を詰め込んだ麻袋を肩に担ぎ、ジョルジュは依頼のあった町へ戻るべく今度こそ足を進めていく。

367 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:23:33 ID:oNhpAIMg0 [6/49]
  
ファイナから程近い森は、先ほどまで群れていた昆虫型魔物さえ倒してしまえば静かなもので、
視界の隅に動物や小獣型、中獣型の魔物や鳥型の魔物の姿が映れど、
彼らが敵意を持ってジョルジュを襲ってくることはない。

魔物とはいえ、彼らも生き物。
自身のテリトリーを持ち、ルールを持っている。

森へ足を踏み入れる者が無作法を侵さぬ限り、
余程攻撃的な性質を有しているか、餌を求めているかしなければ、
無用な争いを仕掛けてくることはなかった。

経験を積んだ冒険者が危険な森や洞窟を悠々と歩くことができるのは、
運の要素によるものではなく、れっきとした理由があるのだ。
  _
( ゚∀゚)「……ん?」

不意に、ジョルジュは足を止める。
これという確証があったわけではない。
ただ、違和感があった。

無意識のうちに見ていた風景、感じていた匂い、音は、
脳に溜め込まれている情報によって解析され、
何たがあって初めて違和感としてジョルジュの意識へ伝えられる。

自身の五感が鳴らす警鐘を無視するのはド三流の所業だ。
利益や命に直結する問題を放置できるはずもなく、
ジョルジュは警戒心と共に周囲全域に気を張り巡らせる。

368 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:24:00 ID:oNhpAIMg0 [7/49]
  
風や鳥、魔物による木々や葉のこすれる音。
鳴き声。地面を駆ける振動。

それらを感じ取りつつ見渡せば、
ジョルジュの視界が捉えたらしい違和感の正体に突き当たる。
  _
( ゚∀゚)「卵、だ」

完全に警戒を解くことはしない。
茂みの中、隠されるように置かれているそれが本当に卵であるのか、
卵であったとして、動物、魔物、どちらの卵であるか。判別がつく距離ではなかった。

危険な魔物の卵であるならば早めに処理をしなければならない。
ただの動物であるならば自然のあるがままにしておく。
希少なものならば、親には悪いが採取するという手もある。

いずれにせよ、ジョルジュは卵らしき物を確認しなければならなかった。
  _
( ゚∀゚)「そーっと、そぉっと」

近くに親がいるかもしれない。
気配を探りつつ、自分のそれを隠す。

足音を立てず、落ち着いた呼吸で、一歩、また一歩。
目標との距離が近づく。
どうやら、何らかの卵であることは間違いないようだ。

369 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:24:51 ID:oNhpAIMg0 [8/49]
  _
( ゚∀゚)「――あ」

しまった、とジョルジュは零す。
同時に、張り詰めていた警戒はすっかり解けてしまった。

ここに危険はない。
しかし、厄介事はある。
 _
(;゚∀゚)「ドラゴンの卵じゃーん」

手を伸ばせば卵に届く距離まで来て膝をつく。
湿った土が彼のズボンに水分を分け与えてくれるが、どうせ買い換える物だ。
気にとめる必要性は感じられない。

そんなことよりも目の前にある卵だ。
養鶏のものよりも遥かに大きく、人の両手に余るほどの大きさ。
硬質な岩のようにざらりとした表面は灰色で、人の目の形をした赤紫だけが異彩を放っている。

眼前に立つ者を見つめるかのような紋様こそ、この卵がドラゴンのものである証。

この世界には多種多様なドラゴンが存在している。
中には人間と共に暮らし、生活を支えてくれている種もいるのだが、
ドラゴンそのものの生態に関する情報は非常に乏しい。

明確にわかっていることといえば、
並大抵の魔物では太刀打ちできぬ力を有していることと、
彼らの卵はどの種であっても同じ紋様を持って生み出されることのみ。

370 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:25:33 ID:oNhpAIMg0 [9/49]
 _
(;゚∀゚)「えっと……この国ではどーすんだっけか」

ジョルジュは懐から革張りの手帳を取り出す。

ドラゴンの卵を発見した場合の処理については世界統一見解が出されておらず、
各国のルールに従うこととなっていた。

国で保護した後、野生に返す場合もあれば、
即座に中身を殺してしまう場合もある。

世界で最も硬い物質であるドラゴンの卵を潰すことは不可能であるが、
国お抱えの魔法使い達のみが知りえる特殊な魔法を行使することにより、
中身のみを殺してしまうことができるらしい。
  _
( ゚∀゚)「あー、ギルドに提出、国での保護、か」

各地を旅して回り、ギルドで依頼を受けて生計を立てている冒険者にとって、
ドラゴンの卵の取り扱いは注意しなければならない最重要項目だ。
見つけることは滅多にないが、万が一の場合に手順を誤れば罰金や牢屋、死刑までありえてしまう。

自身のメモから、この国での処理を確認したジョルジュはドラゴンの卵をそっと抱える。
分厚い殻に守られているのだから、雑に扱ったとしても問題はないが、
赤子以下の存在を無碍にするのは気がひけてしまう。
  _
( ゚∀゚)「お前はどんなドラゴンなのかねぇ」

卵の色や大きさは種に依存していない。
記録に残っているものと同じものに思えても、
生まれくるドラゴンは全く別の種だった、という例がある。

逆に、何もかもが違っていたとしても、同一の種が生まれることもあった。
未解明のことが多すぎるのがドラゴンだ。
逞しい腕の中にいる卵から、世界を揺るがすおぞましい種が生まれたとしても不思議ではない。

371 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:26:09 ID:oNhpAIMg0 [10/49]
  
頑強さに見合う重量を持った卵を抱え、
残りの帰路についたジョルジュは日が暮れる前に町へ戻ることができた。

大きくも小さくもない町の人々は明るく、
魔物の脅威を傍らに感じながらも仕事に励んでいる。

大通りを歩き、ギルドへ向かう中、子供達から受ける尊敬の眼差しだけは、
全ての冒険者が自身の仕事に胸を晴れる要素だ。
討伐終わりでかなり見苦しい姿をしている自覚があるジョルジュにすら、
町の子供達は輝かしい目を向け、母にいつか自分もあんな風になるのだ、と報告しに走る。

心の中では辞めておけ、と呟くも、
遠い昔の自分を思い出すような照れくささがあった。
  _
( ゚∀゚)「ハーニブルの討伐に行ってたジョルジュです」

ギルドの看板を掲げた建物に入り、カウンターへ麻袋を置く。
名前と仕事との照会を済ませた受付嬢は、
やや躊躇しながらもカウンターに置かれた証拠品を手に取り、繕った笑顔で少々お待ちください、と告げた。

余程小さなギルドでもない限り、彼らの仕事は分業制だ。
新人は受付を担当し、ギルドという場所の役割や冒険者の扱いについて学ぶ。
証拠品や依頼の品の鑑定は奥に控えているベテランが行う。

その他、会計や運営、仕事の斡旋、武器防具屋との仲介などなど、
大勢の人間が個々の役割を全うすることでギルドを成り立たせていた。

372 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:26:42 ID:oNhpAIMg0 [11/49]
  
(*゚ー゚)「数が数ですので、もう少々お時間をいただくかと思います。
    よければそちらの椅子におかけになってお待ちください」
  _
( ゚∀゚)「あいよ。
     っと、そうだそうだ。忘れるところだった」

奥の扉から出てきた受付嬢に促され、
頷いたところで自分の片手の中にある重みを思い出す。
  _
( ゚∀゚)「実はドラゴンの卵を見つけましてね。
    ここの国じゃギルドに提出するのが決まりでしたよね」

ごとん、と重い音がカウンターに振動を与えた。
そうして出来上がったのは、見事な間。

受付嬢は目を丸くし、一言も発しない。
周囲にいたはずの冒険者達の声も、喧騒も、何もかもが消えうせた。
  _
( ゚∀゚)「……あれ?」

首を傾げる。
ドラゴンの卵は珍しいものだ。

驚かれるのも無理はない。
しかし、その場合、周囲はもっと沸き立つのではないか。
受付嬢は声を上げて取り扱いの方法を尋ねに奥へ戻っていくのではないか。

373 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:27:09 ID:oNhpAIMg0 [12/49]
  
耳に痛い静寂が生まれて数秒。
受付嬢が口を開く。

(;゚ー゚)「あの、申し上げにくいのですが」

おずおずと搾り出される声は、
ジョルジュが暴れるのではないか、という不安からだろうか。

(;゚ー゚)「我が国は、卵を生命と運命の象徴とし、重んじております。
    特にドラゴンの卵は希少。出会いに与えられる意味は大きく、
    何人足りともその運命を割いてはならぬ、と定められております」
  _
( ゚∀゚)「……つまり」

(;゚ー゚)「卵はギルド預かりでも国預かりでもなく、
    発見者が孵化までの間、面倒を見ることが義務付けられております。
    また、旅人が発見した場合は孵化まで国を出ることはまかりならぬ、と」
 _
(;゚∀゚)「勘弁してくれよ!」

思わずカウンターを強く叩いてしまう。

リスクを嫌っていては冒険者など務まらぬとはいえ、
未知の塊であり、危険の温床でもあるドラゴンの卵を孵化させるというのは受け入れがたいことだった。
活動拠点の固定というのも困った問題で、季節や気候に合わせて国を移動し、
討伐や手馴れたアイテム採取に勤しむための年間計画に狂いが出てしまう。

374 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:28:04 ID:oNhpAIMg0 [13/49]
 _
(;゚∀゚)「じゃあ、これ元の場所に戻してくるから」

(;゚ー゚)「心中はお察しするのですが、法で決まっておりますので、
    その行為を許すわけにはいきません。ご理解のほど、よろしくお願いいたします」
 _
(;゚∀゚)「良いじゃねーか!
    どうせ放置型の卵なんだし、放っておいたって無事に孵化するって!」

(;゚ー゚)「そうでしょう。そうでしょう。
    ですから、特に大変な手間がかかるわけでもございません。
    孵化後の判断は発見者に委ねられますので、売るも捌くもパートナーにするも自由でございます。
    しかし! 卵の間は! 見守り、運命を受け入れていただくことになっております」

ドラゴンの卵には大きく分けて二つの種類がある。
産んだ親が一時として巣を離れず、卵を温め続ける養育型。
こちらの場合、卵を採取することはほぼ不可能であり、
無用心に巣の近くへ足を踏み入れた者は一呼吸さえすることなく命を失うこととなる。

極稀に親が死しており、別の魔物や人間が卵を拾うこともあるが、
絶えず暖め、表面を清潔にするなどの手間暇がかかり、親以外が孵化まで面倒をみることは難しい。

そして、もう片方はジョルジュが見つけた放置型の卵。
親は適当な場所に卵を産み、そのまま去っていく。
頑強な殻に守られた卵は外敵によって破壊されることも、天候や温度に左右されることもなく孵化するため、
ドラゴン以外の生物が見つけ、面倒をみるケースが少なくない数報告されている。
 _
(;゚∀゚)「そこをどーにか!」

(;゚ー゚)「罰せられるのは私、しいてはギルドになります。
    ご要望にはお答えできかねます」

375 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:28:40 ID:oNhpAIMg0 [14/49]
  
身を乗り出すようにして頼み込むジョルジュであるが、
受付嬢も法を犯したくはない。
それこそ、明日からの生活に関わってくることだ。
おいそれと肯定を返してやることはできなかった。

(;゚ー゚)「もちろん、ある程度の保障はされております」

両手を胸の辺りまで上げ、彼女は言う。
町の外で生活しているドラゴンが卵を産む場所といえば、
当然のことながら町の外、魔物が闊歩する世界になる。

町の周辺に採取に行った人間や、町と町を行き来する商人が卵を見つけることもあるにはあるのだが、
やはり確率を考えれば冒険者が発見することの方が圧倒的に多い。
一つの国や町を縄張りとし、動かぬ者もいるが、冒険者の多くは流浪の旅人だ。

卵のために一箇所へ留めておく法があるのであれば、
旅を引き止める保障も整備されて然るべきこと。

(*゚ー゚)「お部屋は国内のギルドにて一室貸し出しさせていただきます。
    食費や雑費に関しましては、上限金額がございますが、
    今から発行させていただきますカードを使用していただけましたら国の負担となります」

制度を悪用されぬようにとの対策であるため、
豪遊をしようと思わなければ充分な金額が利用できる、と彼女は語る。

すぐにでも手続きの用紙を取りに行こうとしつつ、
目を離すことでジョルジュが卵を置き去りにしてしまうことを警戒しているのだろう。
受付嬢はそわそわと体を動かしながら賢明に言葉を紡ぐ。

376 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:29:09 ID:oNhpAIMg0 [15/49]
  
('A`)「兄さん、そっちの事情もわかるがな、
   この国にいる以上、この国の法に従わなきゃいけねぇよ」

哀れなお嬢さんを見かねたのか、
ギルドの隅で仕事を見繕っていた男が声をジョルジュの肩を叩く。
  _
( ゚∀゚)「……んだよ」

黒々とした防具を胸と肩、手に足と、要所要所に装備したその男は、
ジョルジュよりも小柄で細身であった。
見たところ歳もそう変わらず、主に討伐で金銭を得ているジョルジュならば、
彼の手くらい簡単に振り払うことができる。

しかし、何故だか男に逆らおうという気が起きない。
声をかけられて冷静になったのか、年甲斐もなくわがままを言っている、という自覚がそうさせたのか、
ジョルジュは言葉をこもらせ、乱雑に頭を掻く。
 _
(;-∀-)「あー、わかった。わかりました。
     仕方ねぇ。この卵が孵化するまではこの国に滞在する。
     だからそのカードとやらの発行を頼む」

(*゚ー゚)「はい!」

諦めを口にすれば、受付嬢は安堵の息と共に奥の部屋へと駆けて行く。
次に扉から出てくるときは、ベテランの者が一緒にやってくるのだろう。

377 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:29:43 ID:oNhpAIMg0 [16/49]
  _
( ゚∀゚)「すまねぇな。見苦しいとこを見せちまった」

('A`)「いやいや。兄さんの気持ちもわかる。
   気楽に見えるこの家業も、ちまちまと年間計画を立ててやってるんだ。
   想定外なんてない方が良いに決まってら」

卵を抱えなおし、男に軽く頭を下げる。
成人など遠い昔に越えている男が若い女に詰め寄る図は、
見ていて楽しいものではなかっただろう。
  _
( ゚∀゚)「全くだ。でも、だからって若い姉ちゃんにわがまま言うことじゃねぇよな」

不自由はあるものの、この国に留まることが死に直結するわけではない。
ドラゴンがいつ孵化するのかにもよるが、最悪でも来年の都合が変わる程度のことで、
またもう一つ年を跨げば笑い話にでも武勇伝にでもなるようなことだ。

冷えた頭で思い返してみれば、何と無様で傍迷惑なことだったのだろう。
受付嬢が戻ってきたら再度謝らねばなるまい。

('A`)「しっかしドラゴンの卵とは、珍しいねぇ」
  _
( ゚∀゚)「オレも冒険者家業を初めて長いが、実物を見たのは二度目だ」

('A`)「二度? そりゃ運が良いんだか悪いんだか。
   お目にかからないまま死ぬか引退するかの方が多いだろう」

378 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:30:34 ID:oNhpAIMg0 [17/49]
  
ジョルジュは複雑な表情を浮かべ、腕の中にある卵を撫でた。
生命の温もりなど微塵も感じられぬ表面は、内側にいる命を守るための冷たさだ。
  _
( ゚∀゚)「オレァ、どうもドラゴンってのが嫌いでね」

('A`)「……まあ、ドラゴンライダーなんて職業もあるにはあるが、
   人間に友好的な種なんて極わずかだ。大抵は中立。どちらに転んでもおかしくないヤツらばかり。
   敵になれば敵いやしねぇ強さとなれば、嫌うのも無理ないだろう」

受付嬢が帰って来る気配はない。
数年に一度もないような手続きだ。
ベテランも書類や細かな説明が記載された用紙を探すのに手間取っているのだろう。

時間を潰すために見知らぬ冒険者との会話を楽しむのも悪くない。
軽く卵の表面を叩いたジョルジュは、昔を懐かしむ目をしながら口を開いた。
  _
( ゚∀゚)「まだオレが駆け出しの冒険者だった頃のことなんだがな」

現実と夢の狭間に揺れ、自分だけは昔に憧れたような冒険者になるのだ、と言い聞かせていた時代がある。
体力と無謀さだけを抱え、生まれ育った国を旅立った。

多くの冒険者と出会い、話を聞き、経験を積んではまた次の国へ。
苦しい困難は多かったけれど、同じくらい輝かしい思い出もある。
  _
( ゚∀゚)「世話になった冒険者のおっさんがいて、
     その人もオレみたいに依頼の帰り道にドラゴンの卵を見つけたんだ」

379 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:31:03 ID:oNhpAIMg0 [18/49]
  
ドラゴンの卵は発見者が自由にしてよい、と定められていたその国で、
ジョルジュの先輩にあたる冒険者は卵の孵化を選んだ。
御伽噺に見たようなドラゴンとの友情を夢見て。

('A`)「……結果は」
  _
( -∀-)「ご想像の通りさ」

およそ一ヶ月。
冒険者は卵を抱え、大切にした。

何をする必要もないというのに、卵に語りかけ、清潔にし、
どのようなドラゴンが生まれてきたとしても対処できるよう、
依頼終わりには必ず図書館へ寄る生活。

血を分けた子供ができた親のようだ、と、
ジョルジュも周囲の冒険者達も笑っていたものだ。

あの日。依頼を受けるために冒険者が足を踏み入れ、
抱えていた卵にヒビが入るその瞬間まで、
冒険者もジョルジュも、ドラゴンの卵に暖かな思いを寄せていた。
  _
( ゚∀゚)「孵化したドラゴンは瞬く間に羽を伸ばした。
    そして、おっさんを喰った」

止める間もない、一瞬の出来事であった。

380 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:31:37 ID:oNhpAIMg0 [19/49]
  
生まれたてとはいえドラゴンはドラゴン。
揃った鋭い牙は容易く人間の皮膚を裂き、肉を潰した。
大きく広げられた羽は難なく動き、
死した冒険者を体のわりに大きな腕で掴んだかと思えばそのままギルドから飛び去ってしまった。
  _
( ゚∀゚)「今でも忘れらんねぇよ。
    おっさんは、本当にドラゴンが好きで、大切にしようって思ってた。
    なのに、慈しんだ対象に喰われて死んだんだ」

卵が割れたあの時、冒険者の顔に浮かんでいたのは喜の色。
中から生まれ出る存在が自分を害すなど、微塵も考えていなかったに違いない。
  _
( ゚∀゚)「オレは思ったね。
    ドラゴンってヤツは何て恩知らずなんだ、って」

世界に命として存在するより以前の話をされたところで、ドラゴンも困るだろう。
そんなことはわかっている。
だが、感情というのは往々にして理屈でどうにかできるものではない。
  _
( ゚∀゚)「しかもそのドラゴンの特徴を調べたら、人食い種じゃなかったんだよ。
    温厚ってこともねぇけど、敵対しなけりゃ無害だって。
    あっと言う間の出来事だったから、オレが特徴を見間違えたのかもしんねぇけど、
    おっさんが喰われるに値する理由なんてどうやったって見つかりゃしなかった」

('A`)「だろう、な」

テリトリーに踏み入ったわけでもなければ、相手を害したわけでもない。
慈しみが死へと繋がる無常など言葉で説明できるわけがなかったし、
されたところで納得できるものでもないだろう。

381 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:32:10 ID:oNhpAIMg0 [20/49]
  
話を終え、何とも言えぬ空気が流れる中、受付嬢はベテラン職員を連れて戻ってきた。
待たせてすみません、という言葉を受けつつ滞在と資金提供の手続きを済ませてしまう。

自身の腕に収まる小さな卵一つのために、目処のたたぬ期間、国は金を出し続けてくれる。
卵というものを神聖化し、法律によって決められているとはいえ、
国家から受ける初めての高待遇にジョルジュは座りが悪い思いだ。
  _
( ゚∀゚)「お前さん、頼むからオレを喰わないでくれよ」

ギルドから提供された部屋に荷物を降ろし、
手入れだけはされているらしい硬めのベッドに倒れこむ。

抱きかかえたままの卵を掲げ、
ランプの光を浴びた灰色を見た。
  _
( ゚∀゚)「オレも男だ。こうなった以上、運命とやらを受け入れる。
    真っ向勝負だ。ちゃんと面倒見てやるからな」

そっと卵を隣に降ろし、共に毛布を被る。
暖める必要が無いことなど重々承知しているが、
やはり卵といえば暖めるのが常識だろう。
何事も形から入るのがジョルジュ式だ。

油断はしない。
孵化したドラゴンが己を喰らう可能性を考慮し、
常に武器を携帯、できる限り警戒を解くことなく生活し続ける。

容易いことではないが、目に見えぬ運命と戦うのだ。
万全を期するに越したことはない。

382 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:33:12 ID:oNhpAIMg0 [21/49]
   
翌朝。
小鳥のさえずりで目を覚ましたジョルジュはベッドに腰掛けた状態で自身の頬を叩いた。
  _
( ゚∀゚)「っしゃ。やるか!」

バタバタと雑な音を立てながら仕度をした彼は卵を片手にギルドを出る。
昨日は気疲れから早々に眠ってしまったが、
一晩ぐっすりで頭も体も切り替えられるのは冒険者の必須スキルだ。

取れたての野菜や酪農品は朝一番が書き入れ時らしく、
市場は活気に溢れ、大勢の大人が出入りしている。

卵を重要視する文化はしっかりと国民にも根付いているようで、
ジョルジュが抱えている卵について怪訝な顔や疑問符を浮かべる者はいない。
一度、ハッとした表情をし、すぐに柔らかな笑みへと変わる。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)「そこの冒険者さん、うちの肉を買っていかないかい?
      子育てには体力が必要だよ!
  _
( ゚∀゚)「気が早いってもんだぜ!
    でも美味そうだな。今日は別のとこに用事があるけど、
    また今度、寄らせてもらうよ」

彼らは卵から生まれるドラゴンがおぞましい生物であるなど考えていない。
運命を象徴するそれは、いつでも幸運をもたらすと無垢に信じているのだ。

383 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:33:39 ID:oNhpAIMg0 [22/49]
  
市場を抜ければ鍛冶屋や武器、防具。
薬品や魔法道具などを取り扱っている冒険者御用達の店が並ぶ区域へ出る。

一定の需要を得ている店達は滅多なことでは潰れず、
年に数週間程度訪れるだけのジョルジュでも場所を覚え、足を運ぶことは容易であった。
店側も決まった客人がやってくるため顔を覚えやすく、
常連と気楽な会話を楽しみ、要望を聞きながら商売をしている。

双方にとって心地の良い空間がそこにはあった。
  _
( ゚∀゚)「よーっす」

( ゚д゚ )「ん。もうそんな時期か」

とある店の扉を開ければ、
カウンターのさらに奥、作業室で一人の男が顔を上げるのが見える。
冒険者向けの店はひっきりなしに客が入ってくるわけではない。

一日中、誰も扉を開けなかった、ということもざらにあり、
店主達は声がかかるまで工房で新たな武器や防具、薬品作りに勤しむのが常である。

ここ、皮細工を担う店の主、ミルナもここいらの常識に則り、
奥で鎧の一つも作っていたところのようだ。

( ゚д゚ )「今日は何の用だ。
    胸当てか? 靴か? 鞄か?」

384 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:34:06 ID:oNhpAIMg0 [23/49]
  
細かな作業で凝り固まっている肩を回しながらカウンターへと向かってくる。
作業部屋を抜けたところで、ミルナはジョルジュが抱えているモノに気づいたらしく、軽く目を見開いた。
  _
( ゚∀゚)「いや、実はこれを入れておく鞄を作って欲しくてな。
     邪魔になんねぇように肩から提げれる形でさ、
     どんな動きをしても転がり落ちねぇようなやつ」

( ゚д゚ )「こいつぁ……。
    なるほどなるほど。
    そういうことなら、この国の住人として、
    ひと肌脱がねぇわけにもいくまいな」

顎に手をやり、しげしげとドラゴンの卵を見つめる。
冒険者相手の商売をしているとはいえ、
ミルナも実物を見るのは初めてだったらしい。

近くの引き出しから測りを取り出し、高さや直径を計る。

( ゚д゚ )「内側に毛皮でも仕込んでおくか?」
  _
( ゚∀゚)「そりゃいい。あったけぇに越したことはねぇな」

不要だと知りながら尋ねてきたミルナに、ジョルジュは肯定を返す。
互いに料金を上乗せして利益を狙ったり、国への意趣返しにしようという考えがあったわけではない。

未だ生まれぬ命が眠る場所だ。
暖かなものに包まれている方がしっくりくる。

385 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:34:35 ID:oNhpAIMg0 [24/49]
  
( ゚д゚ )「今は依頼も入ってねぇ。
     さっそく作業に取り掛かって、そうだな、夕方には完成させておく」
  _
( ゚∀゚)「サンキュ」

幾つかある魔物の皮からより頑丈なものを選び、
内側に取り付ける毛皮も暖かさを重視した。

普段、自身が装備を買うときは財布との念入りな相談の上、
身軽さと値段を重視した既製品ばかり購入している。
事細かな部分にまで拘れば、それだけ値も張るというもの。

結果、たった一つの鞄は、
ジョルジュがミルナの店で使った最高金額をわずかに超えることとなった。

国支給のカードがなければ、
たかが鞄にこれだけの金額を払うことはなかっただろう。
  _
( ゚∀゚)「じゃあよろしくな」

( ゚д゚ )「おう」

カードで前払いを済ませると、
卵を抱きかかえ次の店へと向かう。

仕事に出るときも卵と共に在れる下準備ができたのなら、
次は仕事中の不足に備えねばなるまい。

386 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:35:29 ID:oNhpAIMg0 [25/49]
  
('、`*川「いらっしゃい」

ミルナの店から数軒挟んだこの店では、
属性や魔法が付与された装飾品が扱われている。

殆ど似通った色で満たされていた皮細工屋とは違い、
赤や青、黄色に緑、黒に白。
様々な色が数多の形となって壁や棚に並べられている。

実用性だけでなく、見た目も重視され、
ただの宝石や金物細工でも得られぬ輝きを持つ装飾品を好む女性は多い。

また、訓練を積んでいない人間でも装備するだけで加護を得られるため、
護身用として祝いの席で送られることも多く、他の店と違って冒険者以外の客も訪れる。

今も店には数名の女性客がおり、退魔のペンダントを見繕っているようだった。

('、`*川「おや、ジョルジュじゃないか。久しいね」
  _
( ゚∀゚)「数年ぶりだな」

ファイナには毎年訪れているが、ジョルジュがこの店を訪れることは滅多にない。
消耗の激しい武器や防具と違い、隠すようにして装備されている装飾品が壊れることはなく、
あれやこれやと追加で装備する趣味も彼は持ちえていなかった。

魔法使いであれば、属性の追加や状態異常の付与のため、
頻繁に買い替えや追加を購入するものだが、
剣と己の体でのみ戦うことへ美学すら感じているジョルジュには不要なものだ。

387 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:36:10 ID:oNhpAIMg0 [26/49]
  _
( ゚∀゚)「今日は細工してなくていいのか?」

('、`*川「うちは普通のお客さんも来るからね。
     バイトが休みの日は私が店番さ」

それで、と注文を聞こうとしたペニサスはジョルジュの腕の中に気づく。

('ワ`*川「おやおや、まあまあ。
     そりゃドラゴンの卵かい」
  _
( ゚∀゚)「おう。昨日、依頼帰りに見つけちまってな」

('ワ`*川「良縁。良縁。
     女にゃ恵まれてないようだが、
     運命はあんたを見初めたってことさ」
  _
( -∀゚)「だと良いんだけどな」

ジョルジュは肩をすくめる。
死も人間に与えられた運命の一つだ。
硬質な卵がそれをもたらす為にやってきた可能性は十二分にあるだろう。

('、`*川「それで、うちに何の御用?」
  _
( ゚∀゚)「仕事にも連れてく予定なんだが、
    如何せん、オレは荒事がメインでね。
    戦いの中でこいつにダメージが通らねぇように何かつけておいてやろうと思って」

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