忍者ブログ

劣等人間のようです

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

( ゚∀゚)ドラゴンと紡ぐ前日譚のようです 後編

388 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:36:45 ID:oNhpAIMg0 [27/49]
  
優しく卵を撫でるその仕草に、ペニサスは手を叩いて笑う。

('ワ`*川「何だい。気が乗らない、みたいな顔しておいて、
     結構、良いお父さんをしてるじゃないか」

そこいらにいる魔物ごときがドラゴンの卵へ傷をつけられるはずがない。
一筋、数ミリの損傷さえなく、むしろジョルジュの体を守るための盾とすらなるだろう。

料金は国がもってくれるとはいえ、
わざわざ女性客の多い店に足を踏み入れてまで用意するものではない。
 _
(;゚∀゚)「やるなら最善を尽くす男なんだよ。オレは」

(うワ`*川「はいはい。そういうことにしておいてあげようかねぇ」

零れた涙を拭い、ペニサスは席を立つ。
丁度良いものがあるのだろう。
  _
( ゚∀゚)「ついでによぉ。
    ドラゴンに耐性のあるやつも一つくれ」

('、`*川「そんな高価なものがうちにあるわけないだろ」

強大な力に対抗しようと思えば、相応の質と技術が求められる。
さらにドラゴンは数が少なく、比例して買い求める冒険者も少ない。
需要と数が減れば生産が減り、個々の値段が上がっていく。

特に耐ドラゴンといえば専門家に金を積んでようやく受注できるような品だ。
王が住まう城があるわけでもない町の店で売っているはずがない。

389 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:37:13 ID:oNhpAIMg0 [28/49]
  
('、`*川「ほれ、あんあにはこれがお似合いだ」
  _
( ゚∀゚)「これは?」

投げ渡されたのは揃いの魔石がついたペンダントと長い紐。
ペンダントの方は魔石が緑であることに合わせたのか、リーフ型をしていた。

('ワ`*川「引き合わせる効果を付与してある。
     ダンジョンや森なんかでパーティがバラバラにならないようつけておくものさ」

強い魔物が跋扈する場において、分断は死に直結する。
そんな時、一つの魔石を砕いて作られたこれらを身に着けていると、
自然と合流するよう体が動くらしい。

('、`*川「互いが効果を正しく認識することが発動の条件だから、
     卵に利くかはわからないけど、まあお守り代わりだよ」
  _
( ゚∀゚)「願掛けみたいなもんだな」

そう言いつつ、ジョルジュはペンダントを首に通し、卵に紐をくくりつける。
灰色の中に輝く緑は、良い具合に趣があり、見栄えも良い。

('、`*川「で、お求めのものはこっち。
     物理耐性だと、孵化の邪魔になるかもしれないから、
     魔法耐性と状態異常耐性にしておきな」
  _
( ゚∀゚)「あー、孵化の邪魔になるってのは考えてなかったな」

手渡されたのは肌触りの良いスカーフだ。
布の端に小さな魔石が縫い付けられている。

390 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:37:40 ID:oNhpAIMg0 [29/49]
  
('、`*川「マントみたいに可愛らしく結んでやったらどうだい」
  _
( ゚∀゚)「こうか?」

('ワ`*川「あぁ、良いねぇ。
     さっきの魔石との相性も良いみたいだ」

薄い黄緑色のスカーフと緑の魔石は灰色を半分以上隠しており、
無機質で冷たい印象があった卵に温度を与えてくれている。
ジョルジュも数秒眺め、満足げに頷いた。
  _
( ゚∀゚)「この三つを貰うわ」

('ワ`*川「まいど。良い買い物したね」
  _
( ゚∀゚)「店主が言うか? 普通」

('ワ`*川「言うさ。自分の作った物に自信があるからね」

ケラケラと二人は笑いあう。

('ワ`*川「次はその子が孵化した時に来な。
     防御でも攻撃でも、ぴったりはまりそうなものを作ってあげよう」
  _
( ゚∀゚)「孵化したら金はオレ持ちになるからやめとく」

('ワ`*川「おや! ケチは父親だこと!」

391 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:38:05 ID:oNhpAIMg0 [30/49]
  
他愛もないやり取りを終えたジョルジュは、
仕事のために己の装備を整えに向かう。

刃こぼれし始めていた愛剣を鍛冶屋に出し、
ダメになった服の変わりを購入する。
自分の懐が痛まぬということもあって、常よりも長く品を見て回り、
多くを買ってしまったのはご愛嬌というやつだ。

帰り道にミルナの店で注文の品を受け取れば、
丸一日をかけた準備が全て整う。
  _
( ゚∀゚)「ピッタリじゃねぇか」

( ゚д゚ )「そりゃな。仕事を請けたんだ。きっちりさせてもらう」

触り心地の良い毛皮が張られた中に卵を入れ、
派手に動いても転がり落ちることのないようベルトでしっかりと固定する。
肩への負担も軽減されるよう設計されており、違和感を最小限に抑えてくれていた。

これならば卵を抱えたまま討伐の依頼を受けても問題ないだろう。
  _
( ゚∀゚)「急な仕事でこんな変則的なもん作らせて悪かったな」

( ゚д゚ )「気にするな。ままあることだ。
    それに、神聖な卵を守るための仕事だと思えば、名誉ですらある」

いつもピクリとも動かぬミルナの表情だが、今ばかりはどこか柔らかく思える。
ジョルジュは再度彼に礼を良い、店を後にした。

392 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:38:25 ID:oNhpAIMg0 [31/49]
  
人間は十月十日でこの世に生まれ出る。
ならばドラゴンは。

ジョルジュがドラゴンの卵を拾ってから、
早くも二ヶ月が経過していた。

('A`)「お、今日は休みか?」
  _
( ゚∀゚)「まあな。昨日、結構稼げたから」

部屋から出たところでドクオと鉢合わせる。
あの日、受付嬢との間に入ってくれた彼は、
一年ごとに拠点とする町や国を変える生活を送っているらしい。

ギルドに住み込んでいるジョルジュとは殆ど毎日顔を合わせており、
互いに他の国や手ごわく思った魔物についての情報交換を行っている。
  _
( ゚∀゚)「今日はゆっくり図書館でも行くかなぁ」

('A`)「はは、卵を捨てようと思っていたヤツと同一人物とは思えんな」

諦めがつけば行動も変わる。
一つの行動が変われば未来も変化していく。

卵と共に町周辺の討伐や採取を行っていくうちに、肩にかかる重みに愛着もわき始めた。
寝るとき以外は常に提げているためか、卵を降ろした瞬間など、喪失感さえ訪れる。

393 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:39:08 ID:oNhpAIMg0 [32/49]
  
衣食住にかかる料金の殆どを国が負担してくれている、というのも大きく、
ギルドの依頼で得た金銭は全てジョルジュの懐に収まり続け、
孵化後も数ヶ月は遊んで暮らせるだけの貯金となっている。

状況としては非常に美味しく、
ギルドを訪れる冒険者達は皆、ジョルジュのことを羨ましげに眺めていた。

('A`)「どんなドラゴンが生まれてくるのかねぇ」
  _
( ゚∀゚)「ぶっちゃけ、字を読むのとか面倒だから細かくは見てねぇけど、
     さーっぱりわかんねぇわ」

生活に余裕が生まれ、非日常が日常へと変化すれば、
脳は自然と先々のことについて深く考えるようになる。

孵化したドラゴンの種類。
一方的な凶暴性を有した種は少ないのだが、
ジョルジュは今現在、判明している情報だけが全てでないことを知っている。

自身や周囲に危険が及ぶのであれば即時の討伐が必要だ。
高い防御力を有しているドラゴンとはいえ、
生まれたての間であれば多少は弱体化しているはず。
討てる瞬間を見逃してはならない。
 _
(;-∀-)「温厚なヤツだったらヤツだったで悩みどころだし」

394 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:39:36 ID:oNhpAIMg0 [33/49]
  
深いため息をついたジョルジュに、ドクオは笑いを返す。

孵化後のドラゴンについてこの国は関与しない。
全てはジョルジュの一存であり、生かすも殺すも彼しだい。

部位に分けるのであれば売るにせよ、
武器防具へと作り変えるにせよ人を見繕っておく必要がある。

パートナーとして傍に置くのであれば、
ドラゴンを連れていても問題のない国を頭に叩き込んだ上で、
食べるものを始め、小まめに面倒をみてやらなければならない。

その場の勢いだけで全てを決めてしまうには重過ぎる選択だ。
命という概念に込められたもの、ジョルジュの抱いた情。
共に量りにかけることはできずとも、確かな重量を持っている。

('A`)「でも決めるなら早いほうがいいだろ」
  _
( ゚∀゚)「わかってっけどさ~」

先延ばしにすればするほど、
肩にかかる重みへの情が蓄積されていく。
育てる覚悟もないままに孵化を待つのは互いのためにならないだろう。
  _
( ゚∀゚)「散々周りから言われてるのもあってさ、
     運命的なもんも感じちまうんだよ」

395 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:40:34 ID:oNhpAIMg0 [34/49]
  
そもそも、ジョルジュが卵を抱えるはめになったのは、
自身のメモを読み違えたことに起因する。

あの森の中で卵を見つけた時、
この国では発見者が孵化まで卵を所持していなければならない、と知っていれば、
間違いなく何も気づかなかったことにしてジョルジュはギルドへ戻っていた。

今頃は次の国へ行き、大金を得られるわけではないが、
食うには困らぬ生活を続けていたことだろう。
 _
(;-∀-)「んー」

('A`)「……ま、お前らにとっての最適が選ばれることを願っててやるよ」
  _
( ゚∀゚)「おう。サンキュな」

悩みの種を改めて認識させられたところで、ジョルジュは図書館へと向かう。
ページを適当にめくり、気になるところにだけ目を通すような読み方であったとしても、
都度都度に思案を挟めば時間もかかる。

(;´・ω・`)「た、大変だ!」

今、まさに手をかけようとしていた扉が勢いよく開き、
一人の冒険者がジョルジュに体当たりをかます。
 _
(;゚∀゚)「うおっ!」

何の心構えもないところへやってきた衝撃にジョルジュはたたらを踏むもどうにか転倒を避け、
やけにボロボロな姿をしている冒険者へ目をやった。

396 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:41:01 ID:oNhpAIMg0 [35/49]
  
(;´・ω・`)「すまない!
      でも、それどころじゃなくて――」

男が次の言葉を告げるより先に、外から甲高い悲鳴が聞こえてきた。
  _
( ゚∀゚)「何だ!」

依頼を受けぬ日も欠かすことなく装備している剣を抜き、素早く外へと飛び出す。
何か有事があったことは確定しているのだ。
わざわざ男の説明を待つ必要もあるまい。

('A`)「こりゃ、大変だ」

続けて飛び出してきたドクオは剣を片手に顔を歪める。

逃げ惑う町の人々と、懸命に対抗する警備兵。
彼らに襲い掛かるのは中獣型の魔物だ。
狼と類似した姿であるが、額から生えた一本の角は普通の獣が持ちうるものではない。

角に魔力を溜めることで魔法を放つこの魔物は、群れを成す特徴がある。
はぐれたものの討伐ならば難しいものではないけれど、
現在、ジョルジュとドクオの目に映っているのは大群。
ギルドへの依頼となればかなりの高額になるであろう難易度の高さだ。
 _
(;゚∀゚)「とにかく助けねぇと!」

('A`)「だな」

397 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:41:29 ID:oNhpAIMg0 [36/49]
  
町に魔物が侵入し、人々を襲っている場合、
その場に居合わせた冒険者が対処するというのが常識だ。
守りに重きを置いている警備兵が魔物を討伐できるはずもなく、
だからと言って、目の前で人が食い散らかされているのを傍観しているわけにもいかない。

正式な依頼の手続きを踏んでいるわけではないため、
強制力は持たないものの、町を救ったという名誉と、
討伐に参加した、という裏づけさえとれればそれなりの報酬も与えてもらえる。

冒険者側にデメリットがあるとすれば、命を賭けなければならないという一点につきた。
しかし、それは冒険者として名乗りを上げたときから覚悟しているはずの部分。
命惜しさで退いてしまうような人間は元より冒険者に向いていない。
  _
( ゚∀゚)「ここはオレ達が引き受けた!」

警備兵に飛び掛る魔物を切り捨て、
町の人々の避難を手助けするよう告げる。

ジョルジュに続き、幾人かの冒険者が既に町のあちらこちらへ向かっており、
他の警備兵達も手助けを受けているはずだ。

すまない、という言葉を背中に聞きながら、ジョルジュは剣を振るう。
連携の取れた攻撃は厄介なもので、
牙と爪を用いた接近戦と遠距離から放たれる中級魔法の合わせ技を前に、
敵の数を迅速に減らすことは困難なことであった。

('A`)「……ちょっと、ここおかしくないか」

398 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:41:53 ID:oNhpAIMg0 [37/49]
  
ドクオが呟く。
片手剣を振るい続けた彼は返り血塗れで、
平和に生きる町の人が目にすれば卒倒してしまうような有様だ。

おそらく、自分も同じようなものだろう、と苦く笑いながらジョルジュはドクオの言葉に耳を傾ける。

('A`)「他と比べて数が多い。
   まるで、何かを守るように」
  _
( ゚∀゚)「そう、かぁ?」

一体を切り捨て、ジョルジュは周囲を見た。
路地の隙間から見える先や、少し離れたところにいる魔物の数に差があるようには思えない。
どこもかしこも魔物だらけで冒険者が不足している。

('A`)「オレにはわかる。
   気配が、ここに固まってる」

特殊なスキルでも身につけているのか、
彼は目の届かぬ範囲にある魔物の気配を感じ取っているらしい。
ジョルジュは片眉を上げ、ドクオからもたらされた情報について考える。
無論、その間も魔物を倒す手足を止めることはない。
  _
( ゚∀゚)「守る? 攻めてきてる側が?
     一体何を、何から」

守るといえば宝。子供。縄張り。

399 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:42:42 ID:oNhpAIMg0 [38/49]
  
(;'A`)「ジョルジュ! わかったぞ。
    こいつらが守っているのは――」

瞬間、群れの中から一頭の魔物が飛び出す。
他の個体よりも一回り大きいそいつは真っ直ぐジョルジュへと向かってきた。
 _
(;゚∀゚)「群れのボス、か!」

赤く染まった爪が彼の首を捉える寸前のところで愛用の剣がその進路を阻む。
激しい音が鳴り響き、互いに込めた全力の力が今もギチギチと嫌な音をたてている。

(;'A`)「とんだハズレくじだ」

大群を相手にするというだけで、骨が折れる仕事であるというのに、
さらにボスまで相手にせねばらないとなれば、骨の一本や二本では済まされない。

体の大きさは見せかけのものではなく、毛皮の下に貯えられた筋肉を示しており、
剣先を食い込ませることさえ難しそうだ。

一度に溜められる魔力も多いのだろう。
額から生えた角は厳つさを増しており、上級魔法程度ならば容易に放ってきそうな予感さえある。
 _
(;゚∀゚)「こりゃ、ちとやべぇな」

400 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:43:46 ID:oNhpAIMg0 [39/49]
  
すぐ傍にいるとはいえ、
ドクオはひっきりなしに追加されていく手下達を相手取るので精一杯。

ボスの相手はジョルジュ一人に託された状態だ。
それも、一対一の戦いなどというお行儀の良いものではない。
相手は周囲にいる手下に指示を出し、ジョルジュを翻弄しては隙を突いて攻撃をしてくる。

非常に不味い。
場を落ち着けることに成功した冒険者の援護を待ちたいところではあるが、分が悪すぎる賭けだ。
 _
(;゚∀゚)「クッソ」

雑魚の爪をはじき、切り捨て、飛び掛るボスを抑え込む。
距離を開けては放たれる魔法をどうにか避け、その先に待ち受ける手下を一突きにする。

致命傷を負うまではいかずとも、
小さな傷がジョルジュに蓄積されていく。

(;'A`)「死ぬなよ!」
 _
(;゚∀゚)「保証しかねるな」

ジョルジュが死ねば、次の標的はドクオだ。
見知った仲の人間が命を落とす光景も見たくないが、
自身の保身も十二分に存在した声かけであった。

401 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:44:15 ID:oNhpAIMg0 [40/49]
  
猛攻を避け、防ぎ、倒し、また顔を突き合わせては離れる。
繰り返される行動はジョルジュの体力を奪っていく。

荒れた息は肩を揺らがせ、剣先を鈍らせる。
避けるため、蹴りあげるための足は震え、思ったように動かない。
 _
(;゚∀ )「そろそろ、退いて、くんねぇかなぁ!」

慣れ親しんだ剣が重く感じる。
振り上げ、降ろすだけの行為が億劫だ。

数が減っているのは目算でも勘定できるのだが、
あと一歩、と言うには多すぎる。
群れのボスを守るべく、他の場所からも手下達が集まってきているのだろう。

どこでこれほどの数が繁殖していたのかは知る由もないことだが、
この戦いを終えた後は大規模な部隊が編成され、
周辺地域の調査が行われるに違いない。

死から少しでも目を背けるため、
ジョルジュは自身が生き残った後のことを考える。

戦いに集中する部分と、生にしがみつくために未来を思う部分。
この二つに思考を占領されたジョルジュは、パキリ、と小さな音がしたことに気づかない。

402 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:44:37 ID:oNhpAIMg0 [41/49]
 _
(;゚∀ )「しつけぇな!」

何度目かの突撃を剣で受け止める。
出血と疲労により、力を失いつつある彼の腕は、
ボスの爪を顔の間近にまで寄せることを許してしまった。

あとわずか時間が経てば、
太く鋭い爪がジョルジュの顔を引き裂く。

ドクオの叫びが遠くに聞こえた。
こちらのことを心配してくれているらしいが、
そろそろ己のことを真剣に考える時期がきている。
  _
(; ∀ )「まだだ。オレは負けねぇ。
     こんなところで死ぬつもりは、ねぇんだ」

爪を弾くと同時に飛び掛る手下を切るも、命を奪うまでには至らない。
胴体から血を流しながら、敵は再度の攻撃を図る。

重い腕を動かし、向けられた爪を受け止めた。
響くのは金属と爪がぶつかり合う硬質な音のはず。
否、それも確かにあった。

しかし、それ以上の音をたてたものがある。
  _
( ゚∀ )「――卵が」

403 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:45:00 ID:oNhpAIMg0 [42/49]
  
どのような金属よりも硬いものが割れる。
ヒビを広げ、隙間を作り、破片を地面へ落とす。

見惚れることができたのは瞬きの間だけ。
数度、激しい音を立てた後、卵は勢いよく破片を周囲へ散らし、
中にいた存在は宙へと飛び出した。
  _
( ゚∀ )「生まれ、た」

緩く巻いていたスカーフと魔石が落ちていく中、
ジョルジュは世界に生まれ出たばかりの存在を見つめる。

真っ白な鱗。
背には柔らかで細やかな毛。
一等長い尾は先へ行くにしたがい細く、鋭くなり、
先端は刃のようなきらめきを有している。

神々しささえ感じられる体に対し、
彼、もしくは彼女が持っている瞳は血の赤だ。

ドラゴンは広げた羽を持って宙に浮かび、周囲をぐるりと見渡す。
冒険者であれば、その瞳が何を意味するかすぐに理解できる。
自身の敵を見定め、攻撃する前段階だ。

('A`)「来る」

零された言葉と共にドクオは地面へ伏せる。
既に周囲の魔物達の視線はドラゴンへと集中しており、彼など意識の外側だ。

404 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:45:32 ID:oNhpAIMg0 [43/49]
  
ひと羽ばたき。
ドラゴンの姿が消える。
 _
(;゚∀ )「うおっ!」

ジョルジュの周囲で血が飛び散った。
彼らの首は最小限のであるが致死となる傷を負わされている。

鉄錆びた臭いを滴らせた魔物達は次々に地面へ倒れ、
命なき肉塊へと成り果てた。
  _
( ゚∀ )「すっげぇ」

惨状は生まれたばかりのドラゴンによるものだ。
的確に首筋を切り裂く様子を目視することはできないものの、
一筋の線となった白色を追うことはできる。

殆どの手下が死に絶え、何匹かが逃走したところでドラゴンは再度ジョルジュの前に現れた。
ボスを見据えた小さなドラゴンの背はサイズ感と裏腹に頼もしいものである。

互いに退く気はないらしく、ドラゴンの唸り声を聞いても眼前のボスは身を低くして機を狙っていた。

人間が介入する余地はない。
そう判断したジョルジュが剣を降ろしたところで、ドラゴンが動く。

白い線が真っ直ぐボスへ向かう。
相手も黙ってそれを受けることはせず、上級魔法を放ちつつ鋭い爪を掲げる。

405 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:46:09 ID:oNhpAIMg0 [44/49]
  
勝負は一瞬であった。
白がボスを通り抜けたかと思えば、鮮血が地面を濡らす。
赤の持ち主は群れを仕切っていたボスだ。

('A`)「助かった……」

ドクオはその場に座り込み、天を見上げる。
死ぬつもりなど毛頭なかったものの、
最小限の被害で終えることができたのは生まれたばかりのドラゴンあってこそ。
  _
( ゚∀ )「お前、オレを助けてくれたのか?」

白い体をわずかに赤く染めたドラゴンは、
ボスを倒したことを褒めてくれと言わんばかりにジョルジュの頬に頭をこすり付ける。
硬い鱗に若干の痛みを感じるものの、
戦いの中で負った傷に比べれば大したことはない。

キュウ、キュウと鳴き声を上げていたドラゴンは、
ハッとした様子で目を見開き、ジョルジュから離れて地面を見る。

同じところを行き来したドラゴンは何かを見つけたらしく、
機嫌良さ気に尻尾を振って地面へと降りて行った。
見れば、小さくも凶器となる手の中には、あのスカーフと魔石が通された紐がある。

どうやらこれを探していたらしい。

406 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:46:43 ID:oNhpAIMg0 [45/49]
  _
( ゚∀ )「これのこと、わかってるのか?」

ジョルジュが問えば、ドラゴンは当たり前だ、と首を縦に振る。
意志の疎通も問題ないらしい。

('A`)「意外と、卵の中でも意識はあるんだよ」

立ち上がる気力を取り戻したらしいドクオは、
ドラゴンと戯れているジョルジュに近づく。

('A`)「良くしてくれたこともちゃんと覚えてるのさ」
  _
( ゚∀ )「そっか」

少し、照れくさい。
必要のないものを買い与え、
眠る前には卵に着いた汚れを拭ってやった。

感謝されたいわけでも、恩返しを期待したわけでもない。
まさか本人が認識しているなど、思いもしなかった。

('A`)「あのさ」
  _
( ゚∀ )「ん?」

ドクオは仲睦まじい二人の様子を見て、頬を掻く。
きっと、ジョルジュはドラゴンを手放さないだろう。
共に旅をするパートナーとして迎え入れるに違いない。

408 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:47:24 ID:oNhpAIMg0 [46/49]
  
('A`)「許してやっちゃ、くれねぇか?」
  _
( ゚∀ )「は?」

ドラゴンの頭を優しく撫でてやっていたジョルジュは怪訝そうな顔をする。
この状況下で誰を許せというのだろうか。

被害の大本である群れのボスか。
既に命なきそれを許すも許さぬもないだろうに。

ジョルジュの抱いた疑問に気づかぬのか、
ドクオは何に対する許しかを告げぬまま話を進めていく。

('A`)「感謝の仕方なんて、礼の作法なんて、
   人間だって国や宗教で変わっちまう」

抱きしめ合うことで親愛を伝える国があれば、
全力で殴りあうことで互いの愛を確かめる国もある。
同じ種であるからといって、常識が同一であるとは限らない。

('A`)「あんたが昔に見たドラゴンってやつは、
   強くて若いヤツに喰われるってのが最上の喜びだったのさ」

老いて死ぬだけの身ならば、
次を生きる強者の糧となり、血肉となる。
そこに誇りを持つものがいた。

409 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/12/10(月) 17:50:59 ID:oNhpAIMg0 [47/49]
  _
( ゚∀ )「何を言ってるんだ?」

('A`)「情がないわけでも、恩を感じてなかったわけでもない。
    掛け違っただけだ」

ドクオは苦く、苦く笑う。

('∀`)「件の冒険者の運が悪かったことは、確かだけどな」

瞳に映った暗い色について問うべくジョルジュが口を開くも、
すぐに向けられてしまった背中から感じられるのは沈黙だけ。
何を問うたところで答えが返ってくることはないだろう。

(  )「――オレは今更何を言ってるんだろうな」

零された言葉にかける言葉などなく、
ジョルジュは去り行く黒を見つめることしかできない。

しばしの間、そうしていると小さくなっていく彼など放っておけ、と
言わんばかりにドラゴンが視界へ割り込んでくる。
可愛らしい仕草に口元を緩ませて軽く撫でてやれば、喉から甲高い鳴き声が聞こえてきた。
  _
( ゚∀ )「お前が良いならだけど」

ドラゴンなど嫌いだった。

他を圧倒し、天災と同一視されるほどの力を有している存在が。
触れることはおろか、近づくことさえ許されぬ気高さが。
あの日見た光景が。

ジョルジュの心に巣食っていた。
けれど、運命がそれを取り払う。

白いドラゴンはジョルジュの言葉を聞き、嬉しそうに声を上げた。



  _
( ゚∀゚)ドラゴンと紡ぐ前日譚のようです






( ^ω^)文戟のブーンのようです[5ページ目]
PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Copyright © 劣等人間のようです : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]