698 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:31:33 ID:9/hgpxdo0 [2/35]
ξ゚⊿゚)ξ「霊感がないことを零感、なんて呼んだりするけど、
お化け側としてはこれが一番厄介なんですって」
ゆらゆらと揺れる蝋燭の炎を前に、ツンは声を潜めて語る。
ξ゚⊿゚)ξ「認識されないモノは存在しない。
私達だって遠い世界のどこかで起こっている事件について、
まるで架空の話のように感じられることって多いでしょ」
室内の明かりは暖かな炎によるものだけで、
人類の英知である電気は全て消されている。
窓はカーテンでしっかりとふさがれており、
街灯も月明かりも入ってこない。
ξ゚⊿゚)ξ「あまり意識していないけど、
認識の力っていうのはすごく強いの。
存在が薄くて頼りないお化けが縋るくらいには」
きし、と木造の建物が軋む。
風の影響だろうか。経年劣化のためだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「だからこそ、人に認識されるべく、お化けは自分を主張する。
音を、影を、そこにある物を使って」
周囲は息を呑み、そっと耳をすませる。
今も何処かからナニカがこちらを見ているような、
存在を知らしめるべくうごめいているような。
そんな気がした。
699 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:32:15 ID:9/hgpxdo0 [3/35]
ξ゚⊿゚)ξ「勘の良い人は気づいてしまう。
認識して、お化けをこの世界に存在させてしまう」
空気のように、目に見えず、触れることもできないモノが、
確固たる形を持ち、そこに存在してしまう。
ツンの傍らで足を折りたたんでいる男の肩が揺れた。
気づいてはならない。
風の音も聞こえぬというのに、
窓ガラスが軋み、何かがぶつけられているかのように鳴いているなど。
ξ゚⊿゚)ξ「死ぬのか、連れていかれるのか。
全てはお化けしだい。
生きた人間にできることなんて、
ほんのわずかしかない」
蝋燭の炎を見つめていた目がゆっくりと上げられる。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、私達は幸せだと思わない?
何も知らない、気づかない。
そこに、人がないモノがいたとしても、ね」
ツンの小さな唇が静かに空気を取り込む。
ξ-⊿-)ξ「五十三本目、おわり」
ふっ、と息が吐き出され、
室内を緩く照らしている明かりが一つ、消え去った。
700 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:32:48 ID:9/hgpxdo0 [4/35]
(´・ω・`)「物語じゃないところがミソだね」
川 ゚ -゚)「見えない幸いか。
確かにそうだな」
('A`)「ふぅ……。
お前、語り口が上手いよなぁ」
(;^ω^)「普通に怖かったお」
ξ゚ー゚)ξ「そう言ってもらえると話したかいもあるってものね」
小さな物置小屋の中、五人の男女が蝋燭の日を囲んでいる。
すでに火が消されているものが五十三本。
未だにオレンジ色を揺らめかせ、
真夏であるにも拘わらず温もりを室内に蔓延させているものが四十七本。
よくもそれだけの数を揃えたものだ、と、
彼らを知るクラスメイト達は呆れることだろう。
(´・ω・`)「それにしても結構、時間がかかるものだね」
('A`)「そろそろ熱くなってきた……」
川 ゚ -゚)「いくつかの窓は開けてるが、
最近は夜でも暑いからな」
誰が言い出したか定かではないけれど、
遊びも学びもよく共にする面々はこの夏、
百物語を敢行することとなった。
701 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:33:24 ID:9/hgpxdo0 [5/35]
好奇心半分、恐怖心半分。
心臓を高鳴らせ、仕入れてきた自慢の怪談話を披露できたのは三十本目まで。
残りは終わりの見えぬ蝋燭の量に怯え、
小さくとも炎が生み出す熱量に汗を拭う。
本来、恐怖で涼しさを得るための儀式のはずが、
実際にこうして体験してみれば熱さが優に上回った。
ξ゚⊿゚)ξ「次、ブーンよ」
(;^ω^)「おっ。
またボクの番かお……」
('A`)「馬鹿。ちゃんと順番に回してるだろうが」
蝋燭を一本、目の前に置かれ、ブーンは眉を寄せた。
元よりオカルト話を好む性質ではない彼は、
何処かに怪談話が残っていないか必死に脳の奥を探索する。
この日に備え、幾つかストックを蓄えてはきたものの、
有名どころは他の者も当然のように知っており、
既に語られてしまった後だ。
何か、今すぐに作り上げた話でもいい。
怪談を口にしなければ。
(´・ω・`)「ブーン?」
川 ゚ -゚)「降参か?」
702 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:34:01 ID:9/hgpxdo0 [6/35]
(;^ω^)「――降参だお」
がくりと肩を下げ、ブーンは白旗を上げた。
(*'A`)「よっしゃ。罰ゲーム回避~」
(´・ω・`)「危なかった。あと三週されたらボクもストック切れだったよ」
川 ゚ -゚)「おい、残りの蝋燭貸してくれ。
いちいち吹き消すのも面倒だし、
水に入れていく」
ξ゚⊿゚)ξ「勿体無くない?」
川 ゚ -゚)「乾かせばまた使えるだろ。たぶん」
うな垂れるブーンを横目に、
ドクオは立ち上がり凝り固まった体をほぐすように小躍りをし、
ショボンは深く息を吐いて重心を後ろへやる。
ツンとクーは万が一のために用意していた水バケツへと火を入れては出すを繰り返した。
たった五人で百もの怪談話ができるとは最初から誰も思っていない。
仮にこれがオカルト研究会のような集まりであれば、
時間をかけて成し遂げる可能性もあっただろうけれど。
対して、今集まっている彼らは常日頃からだらだらとお喋りに興じ、
ゲームをして、テスト勉強をするだけの顔ぶれだ。
かといって、せっかくの百物語を不完全燃焼に終わらせたくはない。
若い頭が五つ円を囲み出した結論は、
最初にネタ切れを起こした者への罰ゲームだった。
703 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:34:32 ID:9/hgpxdo0 [7/35]
(´・ω・`)「さあ、どーぞ」
(;^ω^)「本当に行くのかお……?」
所有者のわからぬ木造の物置の片づけを終えた一行は、
近隣で少しばかり有名な心霊スポットまでやってきた。
鬱蒼と木々が覆い茂る林の中、
太陽から隠れるようにして立てられた一軒家。
いつ建てられ、いつ無人になったのかさえ知られていないそこは、
どのような曰くが付きまとっているのかを聞かされておらずとも、
充分過ぎる程の不気味さと嫌悪感を見る者に与えてくる。
ξ゚⊿゚)ξ「罰ゲームだからね」
(;'A`)「いや、でもここマジこえーわ」
川 ゚ -゚)「昼間に来たときも相当だったが、
夜はやはり一味違うな」
彼らの腰のやや下辺りまで伸びた雑草は不明瞭な足元を生み出し、
一歩を行くことすら、嫌なイメージと共にしなければならない。
木造の壁は碌な手入れも受けていないためひび割れており、
あちらこちらから名も知らぬ植物が生えている。
光のないの場所では、何てことない葉でさえ人の手に見えてくるのだから恐ろしい。
704 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:35:04 ID:9/hgpxdo0 [8/35]
(;^ω^)「うぇぇ……」
ξ゚⊿゚)ξ「男の子でしょ。
ちゃちゃっと行ってきなさいよ」
(;^ω^)「男女差別反対!
時代は男女平等!」
川 ゚ -゚)「もし私が負けていたら行っていた。
これは罰ゲームなのだから諦めろ」
女子二人に背を押され、ブーンは一歩、また一歩と見えぬ地面を踏みしめた。
残された男達は苦く笑いながらも三人の行く先を懐中電灯で照らしてやる。
何も見えぬというのも恐ろしいが、
中途半端な明かりは深い闇を強調し、人の恐怖心という本能を過剰に刺激してしまう。
(;^ω^)「あぁ……。
気持ち悪いお……」
湿った土は時折ぬかるみを形成しており、ずるりと滑る感覚が彼の足に残る。
体験したことなど一度もないけれど、
あたかも腐った人間の肉を足で潰したかのように感じられてしまう。
いつか、残された骨を踏み、バキリと音を立ててしまうのではないか。
過敏になった神経は五感を駆使し、
周囲へ気を張り巡らせ、わずかな音も感触も逃すまいとする。
(;^ω^)「ヒッ」
足元で硬い何かが折れる音がした。
705 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:35:28 ID:9/hgpxdo0 [9/35]
川 ゚ -゚)「ただの枝だ」
今から家の中へ入らなければならないブーンと違い、
外で仲間達と待機していられるクーは冷静であった。
足元から聞こえてきた音は、
ただの木の枝で、けっして人の骨などではない。
ξ゚⊿゚)ξ「もー、本当にビビりなんだから。
別に何かとって来いってわけでもないし、
ぐるーっと部屋を見て回るだけでいいから」
(;^ω^)「それが怖いんだお……」
手には一本の懐中電灯と一袋の塩。
どこぞの神社で貰ってきたような霊験あらたかなものではなく、
道中のコンビニで購入した市販品だ。
せめてファブリーズも装備しておくべきだった、とブーンは嘆く。
噂の真偽はわからないが、
幽霊を退けるというネット界隈の話を心の拠り所にすることくらいはできたはず。
('A`)「あんま遅くなるなよー」
(´・ω・`)「小さい家だし、部屋数も多くないでしょ。
あまり長居すると虫に噛まれそうだし、
早めにお願いね」
( ^ω^)「あいつら勝手なことを」
706 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:35:57 ID:9/hgpxdo0 [10/35]
我関せずとばかりな態度をとる男二人へ小さな怒りを抱いているうちに、
ブーンと二人の女子は家の玄関前にたどり着いてしまった。
川 ゚ -゚)「私達はここまでだ」
ξ゚⊿゚)ξ「頑張って~」
(;^ω^)「あぁ、行かないでボクの女神達」
軽く手を振り、早足でドクオとショボンのもとへ帰っていく。
ここまで背を押してくれた彼女らであったが、
幽霊が出ると噂の家へ極力近づきたくはなかったのだろう。
(;^ω^)「……」
四人がこちらへ懐中電灯を向ける。
ブーンはそれを確認してからゆっくりと振り返り、
玄関を静かに照らしていく。
表札は残っているが、苔が生えており下にある文字を読み解くことはできない。
ポストはガムテープで塞がれているものの、
雨風にさらされた結果、半分ほどが粘着力を失いだらりと垂れ下がっていた。
闇よりも暗く感じられるポスト口は、じっと見つめていると一対の目が浮かんできそうな雰囲気を持っている。
中へ続く扉は昔ながらの引き戸で、曇ったすりガラスの向こう側は不明瞭だ。
懐中電灯で照らしても光を反射するばかりで、内側の様子は一切わからない。
ただ、幾人もが肝試しにきている証か、扉は数センチほど開いている。
視線を降ろした先にあるコーヒーの空き缶は、
心無い誰かの忘れ物だろうか。
707 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:36:28 ID:9/hgpxdo0 [11/35]
(;^ω^)「行くかお」
息を吸い、扉に手をかける。
嫌がる手を叱咤しつつ力をこめれば、
砂を噛んでざりざりと音を立てながら扉は内側の風景を見せてくれた。
足を踏み入れる前、
ブーンは室内を照らす。
砂利と枯れ草が入り込んだ三和土には、
幼い女の子の物と思われる靴が一足。
色あせたピンク色は左右ばらばらになって転がっていた。
(;^ω^)「うわ、うわ、うわ。
小さい女の子はダメだお」
ホラーの定番だ。
ゲームでも映画でも、
幼女といえばそれはそれは恐ろしいモノが正体であることが決まっている。
現実世界で見る子供はあれほどまでに可愛いというのに、
どうしてホラーというものが組み合わさるとこうも恐ろしく変化してしまうのか。
(;^ω^)「しかも、何で、これしか残ってないんだお」
他に母親や父親の物と思われる靴が転がっているのなら、
夜逃げの際に置いていかれたのだ、と思えるのに。
今、ブーンの視界に入っているのは小さな靴だけ。
708 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:37:04 ID:9/hgpxdo0 [12/35]
(;^ω^)「靴箱に入ってたり?」
中が見えぬように扉がつけられている靴箱へと目をやる。
子供の分が外にあるだけで、
ちゃんと確認すれば大人物も残っているのかもしれない。
ブーンは手を伸ばす。
(;^ω^)「……いやいや、止めておこう。
余計なことをする必要はないお」
取っ手に触れる寸前で伸ばした手を戻し、頭を振る。
開けてみて、中が空っぽであるならばまだ良い。
万が一、ありえない話だとは思うけれど、
女の生首がこちらを見ていたら。
大量の御札が貼られていたら。
酸化した血の色で染まっていたら。
悲鳴どころではすまない。
腰を抜かし、這い蹲るようにして友人達のもとへ行くことになる。
(;^ω^)「呪い殺されでもしたら」
こんなところに来てしまったが、
彼は自殺願望者ではない。
明日の夕飯に心を躍らせ、
きたる始業式への憂鬱を抱えた学生なのだ。
709 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:37:44 ID:9/hgpxdo0 [13/35]
パンドラの箱は閉めたままであるべきだと結論付け、
ブーンはいよいよ室内へ足を踏み入れる。
土足で上がるべきか否かを数秒ほど悩んだが、
懐中電灯に照らされた廊下に木の葉を含めたゴミが落ちているのを見ると、
とてもではないが靴を脱ごうという気にはなれない。
(;^ω^)「おじゃましま~す」
板張りの廊下に足を置くと、
ぎしりと小さく音が立つ。
片足、もう片足と両方を乗せ、ブーンは正面を照らす。
直線の廊下。最奥で左へ曲がれるようになっている。
奥に障子が一つ。
おそらくは居間だろう。
そこへ至るまでの左右に部屋が一つずつ。
いずれも襖はしっかりと閉まっており、
玄関扉のような隙間はないように思えた。
(;^ω^)「手前、から」
ラスボスは奥にいるものだ。
出口に近い場所であれば、
何かあった時、逃げ出すことも容易い。
710 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:38:11 ID:9/hgpxdo0 [14/35]
恐る恐る襖を動かせば、
古い家屋特有の抵抗もなく簡単に室内が眼前に広がる。
(;^ω^)「子供部屋、かお」
敷かれた畳は湿度も気温も管理されていない場所に放置された上、
無作法な探索者によって踏み荒らされ、ゴミ同然の有様と成り果てていた。
ブーンは無作法の一員となり、室内へと入り込む。
一歩ごとに聞こえてくる家が軋む音は、
人外への恐怖と共に、建物倒壊の恐怖を彼に与えてくる。
(;^ω^)「勉強机と、本棚と」
子供用の勉強机には多くの落書きが残されていた。
元の持ち主が書いたものではなく、
ここを訪れた者達の手によって書かれたものだ。
相合傘から誰それ参上まで、多種多様な王道がそこにはある。
机の上や周辺に散らばっているノートや教科書の類も、
元はしっかりとしまわれていたものかもしれない。
(;^ω^)「いくら幽霊屋敷とはいえ、これは酷いお」
棚に残っている本を懐中電灯で照らして確認する。
自立することができぬ本たちは不揃いに倒れており、
タイトルを確認するためには多少なりとも触れる必要があった。
711 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:38:34 ID:9/hgpxdo0 [15/35]
(;^ω^)「よ、っと」
一冊を手に取る。
動かしただけで埃が舞い、思わず咳き込んでしまったが、
それ以上の何かが起こる気配はない。
(;^ω^)「古い漫画だお」
呪術に関するおぞましい本でも、
土着宗教にまつわる逸話が書かれた本でもない。
歳相応の子が読みそうな、
単純でわかりやすい漫画本だ。
(;^ω^)「中身は……やめておくかお」
恐怖心による中断ではない。
先ほど、少し手に取っただけで舞い散った埃を思うと、
ページをめくる気になれなかっただけのこと。
出てくるのが埃だけであるのならばまだしも、
小さな虫が飛び出して来た日には、
ブーンはあられもない声と共にこの家を出ることになってしまう。
そうして、お化けよりも虫を怖がった男として、
散々笑いものにされるのだ。
712 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:39:06 ID:9/hgpxdo0 [16/35]
手に取った本を元の場所へと戻し、
ブーンは改めて部屋を懐中電灯でぐるりと照らす。
壁は年季を感じさせる汚さがあるものの、
血痕や人の顔に見えるシミなどはない。
窓には日に焼けたカーテンがかかっており、
外の世界を見ることは叶わなかった。
ほんの少し、隙間が空いていることからブーンは目をそらす。
扉にせよ窓にせよ、カーテンにせよ、
完全に開け放たれていれば大きな恐れにならぬというのに、
ほんのわずか、顔のパーツが一つ収まる程度の隙間というのは非常に恐ろしいものだ。
何の変哲もないカーテンが女の黒い髪の束のようにさえ思えてしまう。
電気の光に照らされたそれは、白っぽいピンクであるというのに。
人間の認識というものはあてにならない。
(;^ω^)「ここはもういいか」
他に目立ったものはない。
家捜しをするためにきたのではないのだから、
隅から隅まで探す必要もないだろう。
ブーンは部屋を出るべく足を進めた。
どさり、と背後で何かが落ちる。
713 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:39:29 ID:9/hgpxdo0 [17/35]
(;^ω^)「…………」
足を止め、息を止め、背後へ意識をやる。
格闘技の達人でも何でもないブーンは、
目に見えぬモノの気配を感じ取る技術など持ち合わせていない。
けれど、無関心でいることもできず、
己から発せられる音を極力控え、
背後から聞こえてくる物音を聞き逃さぬよう本能が働いた。
(;^ω^)「……お」
数分か、数秒か。
長く感じられた時間を静止したまま過ごした彼は、
無意味な音を発し、緩慢な動きで振り返る。
わからないは恐ろしいと同意義だ。
何が起きているのか、
そもそも背後に何かあるのか。
じっと待ち続けるには重過ぎる恐怖がブーンの肩に圧し掛かる。
体ごと後ろを向いてしまったのは、致しかたのないことだった。
(;-ω-)「……」
何もないことを望みつつ、
頭の中に浮かぶのは恐ろしい形相をした化け物の姿だ。
今にもブーンを食い殺さんとするその表情に、
彼の背はナメクジが這うような速度であわ立っていく。
714 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:40:18 ID:9/hgpxdo0 [18/35]
(;^ω^)「……何も、いない」
振り返った部屋の中は、
先ほどまで見ていた風景と何ら変わりない。
否、一つだけ違っている。
(;^ω^)「あ、漫画が落ちてるお」
ブーンが元に戻したつもりであった本が床に落ちていた。
強く意識して行った行動ではなかったため、
記憶が曖昧であるが、たどってみれば本棚の奥に手を入れるのが恐ろしかったため、
手前のほうに本を置いたような気もする。
彼が歩けば床が軋むような家だ。
歩行の振動を受けた本棚から本が落ちることはそうおかしなことではない。
(;^ω^)「良かったお。
マジで死ぬかと思ったお」
安堵の息を漏らしたブーンは改めて部屋に背を向け、
向かい側の部屋へ赴くべく足を進めて行った。
無論、襖を隙間なく閉めることは忘れずに。
715 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:41:25 ID:9/hgpxdo0 [19/35]
(;^ω^)「こっちは親の部屋、とかかお?」
子供部屋と同じく痛んだ畳が敷かれた部屋は、
家具が一切なく、がらんとした空間が広がっている。
床の間には古びた掛け軸が残されており、
侵入者を迎えてくれているようだった。
(;^ω^)「うわぁ」
他に注目する物がなかったため、
渋々掛け軸へ光を当てれば、橋と柳が描かれた水墨画が現れる。
ブーンは芸術に詳しいわけではないので、
ここに放置されている物の価値や作者がわかるわけではない。
しかし、橋と柳が幽霊と非常に相性が良いことは知っていた。
(;^ω^)「不気味だお」
黒々とした柳は女の髪のようで、
瞬きのうちに描かれているモノが変わってしまいそうですらある。
これで掛け軸の裏に破れた御札でもあれば、
ホラーゲームとしては完璧だろう。
(;^ω^)「……いやいやいやいや」
考え、否定を口にする。
どうして自ら恐怖に手を伸ばさなければならないのか。
716 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:42:20 ID:9/hgpxdo0 [20/35]
ツンやクーといった女性陣がいたとしても、
格好をつけて掛け軸をめくることはしなかっただろう。
男としての度量を見せつけたい気持ちはあれど、
妄想が現実となってしまった時、自分が冷静であれるとは思っていなかった。
(;^ω^)「よし。なかったことにしよう」
掛け軸の裏を見るなど思いつきもしなかった。
だから触れずにここを立ち去るのは当然のこと。
そう結論付けたブーンは自分に言い聞かせるようにして頷く。
首の動きと連動し、懐中電灯の明かりがちらちらと動き、
柳の根元と先端を照らしては消える。
がたり、と音を立て、絵が消えた。
(;^ω^)「――ヒッ」
触れてもいない。
風が入りこんでいるわけでもない。
だというのに、掛け軸はひとりでに落ち、
冷たい板の上に体を折り重ね、横たえる。
(;^ω^)「……何も、ない」
落ちた掛け軸からそっと目を上げ、
壁を見るが何もない。
御札も、呪詛も、何もかも。
717 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:43:03 ID:9/hgpxdo0 [21/35]
(;^ω^)「紐の部分が劣化してたのかお?」
ありえない話ではない。
何もかもが古びているこの家だ。
細い紐が劣化し、とうとう千切れてしまうのは理論として正しいだろう。
(;^ω^)「うん。きっとそう。
そうに違いないお」
幽霊の正体見たり、枯れ尾花。
冷静になって考えれば心霊現象などただの偶然や見間違いに過ぎない。
ブーンは己を鼓舞するための言葉を口にしながら早足で部屋を去る。
一刻も早くこの家を全て回り、友人達のもとへ戻りたい。
近くのファミレスにでも行き、からかわれながらも今の恐怖を伝えてやりたい。
(;^ω^)「次!」
勢いに任せて終わらせてしまおう。
そう考えたブーンは素早く次の部屋へ行く。
家族団らんの場所であったであろう居間は台所と繋がっており、
母親が食事の支度をしている様子を子供と父親が並んで眺めている光景をすぐに連想させる。
部屋の中央に残されたちゃぶ台と、卓上カレンダーが何とも言えぬノスタルジックを演出していた。
( ^ω^)「ここは色々と残ってるおね」
見てきた二つの部屋と違い、ここには大型の家具が幾つも残されている。
食器棚、冷蔵庫、レンジ、ちゃぶ台、棚、テレビ。
全てがここにかつて人間が住み、生活していたことを訴えかけていた。
718 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:43:55 ID:9/hgpxdo0 [22/35]
( ^ω^)「中身は空かお」
ガラスがはめ込まれた食器棚の中には何も残っておらず、
寂しげに何かを入れてもらえるのを待っている。
棚も同じく筆記具の一つすら残っている様子はなく、
身を軽くして部屋に佇んでいた。
冷蔵庫を開ける勇気はなかったが、
普段ならば無意識に耳にしている稼動音がないというだけで、
ブーンの身の丈以上のそれが異物にしか思えなくなるのだから不思議なものだ。
(;^ω^)「……水?」
静かな世界の中、
いつからあったのか、小さな音が聞こえてくる。
聞き覚えのあるそれにブーンが目をやれば、
水道の蛇口から一滴、また一滴と十数秒に一度の感覚で水が垂れ落ちていた。
(;^ω^)「だ、誰かが閉めそこなったのかお?」
雑多な人間が足を踏み入れているような場所だ。
ブーンよりも前に来た人間が水を使い、
適当に蛇口を閉めてしまったということは十二分にありえた。
彼は震える手をハンドル部分に伸ばし、慎重に回す。
錆びが鈍い音を響かせながらもハンドルは動き、
垂れていた水が無事に止まった。
719 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:44:25 ID:9/hgpxdo0 [23/35]
(;^ω^)「もうミッション完了でよくない?
ボク、めちゃくちゃ頑張ってるくない?」
そうは言うが外で待機している友人達が納得するとは思えない。
再チャレンジだドン! とばかりに蹴り飛ばされる可能性だってある。
結局のところ、ブーンには先へ進む以外の選択肢など用意されていないのだ。
(;^ω^)「写真立てとかが残ってなくて本当に良かったお」
心霊写真めいたものでなくとも、
家族団らんが収められた写真など残っていようものならば、
この家の惨状を思い、悲しみに胸が満たされかねない。
借金にせよ、心霊にせよ、
家具や電化製品を残して家を去った人間が、
今は幸福に生きている、などとは思えないのだから。
( ^ω^)「あと残ってる部屋といえば……」
客間等の部屋が残っている可能性も否定はできないが、
外から見た大きさを考えるにそういった部屋は残っていないだろう。
だとすれば、後に控えているのは、
生活するにあたり、必要不可欠な場所。
(;^ω^)「トイレと風呂場、かお」
720 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:44:49 ID:9/hgpxdo0 [24/35]
水場というのは霊が集まりやすい。
いつ、どこで知り得た情報かをブーンはもう覚えていないけれど、
一足す一が二であるように、半ば常識として彼はその情報を記憶していた。
となれば当然、風呂場もトイレも足を向けたくない場所となる。
特にトイレといえば学校の怪談でも必ず使用される心霊スポットだ。
出てこない、と太鼓判を押されたとしても易々と信用することはできない。
(;^ω^)「なーんでこの廊下こんなに長いんだお」
軋む床音と共に前へ前へと進む。
合間に部屋があった玄関からの道と違い、
右手に居間をすえた廊下はひたすらに直線があるばかり。
花瓶でも置いていたのであろう小さな棚があるだけで、
他には何の代わり映えもしない闇が延々と続いていく。
(;^ω^)「早く、早く突き当たりに」
遥か彼方まで存在していそうな廊下は、
何も物理的に長いわけではない。
勿論、霊的現象による存在の延長でもない。
単純にブーンの歩みが遅いというだけだ。
懐中電灯があるとはいえ一寸先は闇。
幽霊も怖ければ虫も怖い。
片足に重心を移動させるだけの動作に時間がかかってしまうのは必然ですらあった。
721 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:45:15 ID:9/hgpxdo0 [25/35]
たっぷり時間をかけてたどり着いた突き当たりには、
トイレと思わしき木製の扉がある。
勝手なイメージではあるが、
この家の古さから考えて水洗トイレではないだろう。
所謂ぼっとん便所と呼ばれるものは、
地の底から何かが這い出してきそうな恐ろしさと同時に、
すぐそこに排泄物が存在しているという、
現代人からすれば多少の嫌忌感が湧き出るものでもあった。
(;^ω^)「……ここは、いいかな」
放置されて幾年月が流れているのかはわからないが、
既に排泄物は全て自然へと還され、ハエも蛆もいないだろうけれど、
不確かな扉向こうに対する恐れは大きい。
(;^ω^)「でも、うーん」
扉を開けようとしては手を下げ、
トイレ前で必死に思案する。
場所が場所だ。
友人達はきっとトイレの様子をニヤニヤしながら聞いてくるに違いない。
適当な話をでっちあげてしまえればいいのだが、
元より嘘が上手い方ではないブーンだ。
幽霊や虫への恐怖と戦い、疲弊した精神状態で友人達を言いくるめられるはずがなかった。
722 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:45:49 ID:9/hgpxdo0 [26/35]
(;^ω^)「一瞬。パッと開けて、パッと閉める」
五回ほど同じ言葉を繰り返し、
とうとうブーンはトイレの扉を開ける。
密閉された空間で熱された空気はむわりと廊下に飛び出し、
彼の頬を撫でて消えていく。
(;^ω^)「……何も、ない」
和式の便所。
トイレットペーパーホルダー。
たったそれだけの空間だ。
蜘蛛の巣一つ存在していないというのが、不気味さを煽りたて、
この場の異常性をブーンの肌に刺し込んでいく。
虫も幽霊も居なかった安堵感と、
今の今まで現実世界と隔離されていたかのような空間の奇妙さに挟まれ、
彼は四肢から力を抜くことができないでいた。
(;^ω^)「…………」
生唾を呑み、おもむろに懐中電灯を上へと向けていく。
上にナニカがいるというのは、ゲームや映画での定石だ。
壁と天井の境目が照らされ、
木製の天井、トイレの真上。
ブーンの真上と光が移動していく。
723 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:46:12 ID:9/hgpxdo0 [27/35]
何もいない。
何もない。
(;^ω^)「そりゃ、そうだおね」
ここは現実の世界だ。
ゲームや映画のようなフィクション世界とは違う。
深く息を吐いたブーンは、
ようやく体からわずかに力を抜き、トイレの扉を閉める。
次はいよいよ風呂場だ。
曲がり角から見えている扉へ目をやる。
途端、背後からカタリ、と音がした。
(;^ω^)「――え?」
素早く振り返る。
音がするような物は何もなかったはずだ。
落ちるような物も。
人工的な光に照らされた部分以外、相変わらずの闇に覆われている廊下は、
先ほど聞こえた音は幻聴ですよ、とばかりに静まり返っている。
耳の奥が痛くなりそうな静寂の中、
ブーンの心音と呼吸音だけがノイズとなって鼓膜と骨を揺らす。
(;^ω^)「誰か、いるのかお?」
724 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:46:36 ID:9/hgpxdo0 [28/35]
怯えている自分を脅かしにきた友人だろうか。
一抹の期待を胸に声をかけるも、
返事はかすかな音ですら返ってこない。
(;^ω^)「ネズミ、とか」
人が住んでいる家であったとしてもネズミは入り込んでくる。
外敵が既に立ち去った後の、雨風をある程度しのげる場所。
動物達からしてみれば、これほど巣として利用価値の高い場もあるまい。
しばしの間、その場で息を潜め続けたブーンは、
何の音も姿もない時間に見切りをつける。
どの道、残された場所はたった一つだ。
素早く確認、素早く退却。
音の正体が幽霊であったとしても、
逃げ切ることができればブーンの勝ちだ。
幸い、彼は足の速さに自信があった。
(;^ω^)「行くお」
改めて風呂場側へ方向転換をし、
長い廊下をそっと歩いていた人物と同一であるとは思えぬ速度で廊下を行く。
足元から聞こえてくる限界を叫ぶような音を無視し、
彼は風呂場へ繋がる扉を開け放つ。
725 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:47:11 ID:9/hgpxdo0 [29/35]
砂と木の葉が入り込んだ汚い浴槽と、
シャワーヘッド、椅子、鏡。
小さな浴室にはそれらが在る。
(;^ω^)「きたねぇ……」
こんな場所で体を洗えば、逆に汚れてしまうだろう。
恐怖心を一瞬忘れ、素で呟いてしまうほどに浴場は汚い。
ゴミの入った浴槽を抜いたとしても、
曇った鏡とカビや苔の生えた床と壁。
部屋の隅へ光を当てれば名も知らぬキノコが生えている。
換気用の小さな窓は開け放たれており、
そこから胞子だの砂だの木の葉だのが入り込んでいるのだろう。
( ^ω-)「おっ」
シャンプーもリンスもない浴場を見渡していると、
不意に鏡に反射した光が目を射抜いた。
眩しさに懐中電灯をずらしたところで、
自分の姿が鏡に映っていることに気づいた。
鏡の役割と位置を考えれば、
至極真っ当な現象であるが、場所が場所だ。
思わず背筋が凍ったのも無理のないことだろう。
726 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:47:31 ID:9/hgpxdo0 [30/35]
鏡面の向こう側。
ブーンの背後には真っ暗な闇がある。
血に塗れた手が肩にかかっているわけでも、
醜く腐った顔があるわけでもない。
あるがままが映った鏡。
何も映っていないことを確認し、
改めて彼は現実の背後を見る。
やはり何もない。
脱衣所があるばかりで、
タオルも歯ブラシも残されてはいない。
(;^ω^)「……やっぱり幽霊なんて眉唾もんだお」
外から聞こえてくる風の音と虫の音以外の音はなく、
気配も姿もブーンには感知できなかった。
おぞましげな雰囲気は依然として残されているものの、
全ての部屋を見終えてしまった彼としては、
所詮はこんなものか、と小さな笑いがこみ上げてくる。
( ^ω^)「早く戻るお。
遅くなるとみんなに怒られちゃうお」
浴室を出て、数歩。
軋む床音にあわせ、懐中電灯の光が点滅しだす。
727 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:48:31 ID:9/hgpxdo0 [31/35]
(;^ω^)「おっ? ま、待って、待って!」
こんな時に電池切れか。
ブーンは光があるうちにと廊下を駆ける。
力がこめられた足の動きに床は悲鳴をあげ、
時折、小さな断絶音を空気中に吐き出す。
床が抜けるのでは、という不安もあったが、
それ以上に暗闇が恐ろしい。
単純な構造をしているので、
壁を伝ってゆけば外へ出ることはできるだろうけれど、
幽霊屋敷でそれをしたいと思う人間はまずいないだろ。
駆け抜ける振動を受けたのか、
物が落ちる音が聞こえた。
水の音を聞いた気もした。
暗い隙間もあったかもしれない。
だが、それらは全てブーンの意識の外にある。
(;^ω^)「セ、セーフ!」
激しく点滅する懐中電灯を手に、
玄関から外へ転がり出る。
背の高い草がブーンの顔をペシペシと叩く。
728 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:49:00 ID:9/hgpxdo0 [32/35]
ξ;゚⊿゚)ξ「ブーン?」
(;'A`)「おいおい、大丈夫か?」
激しい音と共に飛び出してきたブーンを目にし、
友人達は慌てて彼のもとへと駆け寄る。
罰ゲームと称してブーンを押し込んだのは彼らであるが、
大切な友人を傷つけたいわけではなかった。
室内に浮浪者や犯罪者でもいたのか。
あるいは本物の幽霊でも出たか。
前者であるのならばすぐさまこの場を離れなければならない。
後者であるのならば心配をかけさせて、と怒り半分笑い半分の言葉を叩きつける必要がある。
(;^ω^)「いてて……」
地面に伏していたブーンは友人達の声に体を起こす。
( ^ω^)「……あれ」
右手に持っていた懐中電灯は真っ白な光で地面を照らしていた。
電池切れの気配は微塵もない。
川 ゚ -゚)「おーい」
(´・ω・`)「怪我とかしてない?」
( ^ω^)「おっ。
大丈夫だおー」
729 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:49:38 ID:9/hgpxdo0 [33/35]
倒れた衝撃で電池の位置が良い感じにずれたのだろうか。
都合の良い解釈をしつつ、
ブーンは友人達の方へと歩き出す。
ξ;゚⊿゚)ξ「――ぁ」
懐中電灯に照らされたツンの顔が青ざめる。
( ^ω^)「お?」
平気な顔をしている自分に腹を立て、演技でもしているのか。
彼らならばしかねないな、と思いつつ、
ブーンは他の三人へ視線をやる。
(´;・ω・`) 川 - ) ('A`ill)
三者三様。
しかし、誰もが表情を硬くしている。
(;^ω^)「どうしたんだお」
疑念が心配へと変わり、
徒歩から駆け足へと移行していく。
ξ;゚⊿゚)ξ「や、やだ。
こないで!」
(;^ω^)「ツン?」
730 名前:名無しさん[] 投稿日:2018/09/02(日) 22:50:33 ID:9/hgpxdo0 [34/35]
来るなと言われても、
既にブーンは駆け始めてしまっている。
止まることはできない。
彼らとの距離が縮まっていく。
青ざめるツンの顔。
極限まで見開かれた目。
( ^ω^)「――あ、れ?」
ブーンは彼女の瞳に映る己を見た。
距離にして二メートル以上も離れているにも拘わらず、
小さすぎる像が彼の脳に叩き込まれる。
長い髪を垂らし、耳元まで裂けた、真っ赤な口の女。
ブーンの肩に触れる、バラバラの方向へ折られた指。
彼女がまとう黒い靄。浮かぶ白い目、目、目。
それは、ツンの視界から見た光景だった。
・
( ^ω^)は零感のようです
了
( ^ω^)文戟のブーンのようです[3ページ目]PR